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[ クライム/倒叙 ]
警察にはしゃべるな
ハル・エルスン 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 人並由真 2025/12/05 22:07
(ネタバレなし)
 ハーラン・エリスンではない、ハル・エルスンである。
 現在では知る人のみ知る、1960年代に日本版EQMMや日本版マンハントなどで随時誌面を飾った(?)、不良少年テーマを基軸とする、埃臭い青春ノワール短編路線のクライムストーリー作家。その中短編集。
 そういう形質の作品路線なので、当然のごとく完全なノンシリーズものばっか。 
 なお表題作(書名)は「警察にはしゃべるな」と書いて、「さつにはしゃべるな」と読む(書名標記も「警察」に「さつ」のルビ)。
 Amazonのデータ表記がこれも不順だが、昭和36年6月30日の刊行。

 日本で訳されたものを全部集めてこの一冊か? とも勝手に勘違いしていたが、ネットで再確認したらエルスン作品は20本前後と、それなりに1980年代まで訳されていた。
 本書はエルスンのメイン翻訳家であった田中小実昌が手掛けたものばかりを集成して、中編からショートショートっぽい長さのものまで全部で11本の作品が収録されている。

 個人的な話だが、もともと数年前に行きつけの古書市で本書を見つけ、微妙な値段だった(そんなに高くはないプレミア)ので、迷った末に置いてきたが、その後、Amazonのマケプレなどではかなりの高騰古書と判明。同時に何となく読みたい思いもぶり返してきて、ようやく今年の中盤にそこそこの値段(ただしその古書市の古書価より高かったと思う)で入手した。

 評者はもともと少年時代に、前述の日本版EQMMやら日本版マンハントを集めていた際、その掲載号を入手すると割とすぐ読んでいた作家の一人だったと思う。文字通り、時に完全に救いのない、乾いたハードボイルドな文体と内容にどっか惹かれていたのだと思う(当時は)。

 で、いいトシになった今、一冊単位で読み返すと、良くも悪くも王道の不良少年もの、暗黒街というにはまだ浅いがしかし確実にヤバイ雰囲気の世界で起こるアレコレの出来ごとを主題にした作品ばっかだが、そんななかにも21世紀の現代においてもああ、人間って変わらねえな、という普遍性が覗いたり、一方で最近の話題の新書「不適切な昭和」の1950年代アメリカ版みたいな時代の空気感が押し寄せてきたり、で、そーゆー意味で面白い。
 とんでもなく凄いものに出会った、という感触はあまりないが、ワル同士の内紛(というか野望とそのしっぺ返し)を描いた短編「頭(ぺてん)を冷やせ」の何とも言えないクロージングのビジュアルなんか、かなり印象に残る。鑑別所の中での人間模様を描く掌編「ビッグ5」などは本書のなかでは変わった傾向の作品だろうが、その辺は本書の最大限の幅という感じでそれもまた。

 エルスン作品、もう一冊位、どっかでまとめてくれたら、とも思うが、まあテーマそのものは前述の通りにいつの時代にもあるものなので、あえて当世に引っ張り出す理由もないのかな、という気もしないでもない。
 ミステリの広い大海のなかで、こーゆー傾向のものが(ものも)お好きな人はどうぞ。


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平均:6.00 / 書評数:1