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[ SF/ファンタジー ]
脳髄工場
小林泰三 出版月: 2006年03月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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KADOKAWA
2006年03月

No.1 7点 パメル 2025/08/08 19:22
SFとホラーが交錯する作者ならではの独特の世界観が堪能できるショートショートを含めた11編が収録されている。その中から6作品の感想を。
「脳髄工場」犯罪者の矯正が目的で開発された人工頭脳で、感情を制御する社会が描かれる。自由意志とは何か、人間にとって脳とは何かという命題に科学的、論理的アプローチを試みたような対話があるが、最終的には衝撃的の真実に直面する。決定論的な世界観の不気味さと、科学管理社会への警鐘とも読める。
「友達」内向的な少年が想像した理想の自分が実体化し、主体性を奪う。分身との対立は「自己否定」という心理的ホラーへ発展し、戦慄を味わうことになる。
「綺麗な子」ロボットペットが普及する社会で、生身の子供を「手間のかかる欠陥品」と見なす母親の狂気。技術依存が倫理観を侵食する過程が不気味。
「C市」クトゥルフ神話を下敷きに、科学者が異次元生命体「C」に対抗する自己進化型生命体を開発。しかし「塩の秘術」や呪文が突然登場し、科学とオカルトの境界を瓦解させる。
「アルデバランから来た男」バックアップされた意識が本体を消すディストピア社会を風刺。探偵たちの超能力やグロテスクな描写と軽妙な会話が奇妙に調和している。
「影の国」ビデオテープに記録された「影の王」の存在が、観測されること自体が現実を歪める恐怖を喚起。技術革新や社会制度の裏側に潜む倫理的闇を、ホラーの手法で可視化している。
SF的な設定を土台にしながら、人間の精神の脆弱性や社会の歪みをホラーとして昇華させた作品集。特に「穏やかな日常が少しずつ狂っていく」構成は、現代の技術依存、倫理の曖昧化を反映しており、単なる恐怖体験ではなく、人間存在そのものへの問いとして迫力を持っている。


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