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[ ホラー ] ミスターX |
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ピーター・ストラウブ | 出版月: 2002年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 東京創元社 2002年05月 |
![]() 東京創元社 2002年05月 |
No.1 | 6点 | 猫サーカス | 2025/08/02 17:55 |
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見ず知らずの人々を惨殺する黒衣の男。ネッド・ダンスタンは、幼い頃から誕生日のたびに、そんな幻想に悩まされてきた。やがて大人になったネッドは、母親の危篤を直感し故郷に急ぐ旅の途中で、自分の先を越しては奇妙な痕跡を残すもう一人の自分の存在を知る。帰郷とともに明かされる一度も会ったことのない父の名前、複雑な血縁関係、そしてダンスタン一族に伝わる不思議な能力の数々。黒衣の男とは実在するのか、もう一人の自分とは何者なのか。少年時代からラヴクラフトの恐怖小説を聖書と崇める謎の人物がミスターXの独白の章を挟みながら、数々の謎が少しずつ明らかになっていく。アメリカ十九世紀ロマン派作家への目配せを利かせた馥郁たる読み心地が魅力的。またとんでもない人間大集合の如きダンスタン一族の肖像は、米南部文学の特徴であるホラ話に見られるグロテスクなユーモアをまとって、実に愉快。おどろおどろしい化物が地上から這い出してくる昏い幻想の魅力ばかりが取り沙汰されるラヴクラフトの世界に、リアルな人間ドラマを加味することで、物語としての厚みを増している。しかも最後の一節を読むに至り、ドッペルゲンガーのネタが信用ならざる語り手の効果を生み出し、気味の悪さが効いてくるといった趣向までが凝らされている。 |