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[ 本格 ]
鍵かけた扉のかげで
精神病理学者ベンティロン博士
アーネスト・M・ポート 出版月: 2025年09月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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Independently published
2025年09月

No.1 7点 人並由真 2026/03/14 23:22
(ネタバレなし)
 1913年8月のニューヨーク。73歳の退役軍人ジョージ・カリントン・コンフォード少佐が、自宅の屋敷で刺殺される。少佐は若い頃の蛮行的な武勲の反動でかつて手に掛けた者の係累から復讐されることを病的に恐れ、屋敷の中でも自室の周辺に敷居を設けるほどだった。「僕」こと28歳のインターンでベルビュー病院の緊急医フレデリック・ホームズ・ブレイクリーは当初からたまたまこの殺人事件に関わるが、少佐と同居する22歳の美人の姪でそして伯父殺しの容疑者となったミルドレッドに恋してしまった。なんとか事件の真相を暴いてミルドレッドの潔白を証明したいフレデリックに、彼の悪友で同僚の好漢コステロは、NY56丁目に療養所を構える老齢の精神病理学者でそして知る人ぞ知るアマチュア名探偵であるサディウス・ベンティロン博士の存在を教えた。

 1919年に雑誌連載され、1923年に書籍化されたアメリカ作品。長編3本、中短編30本に及ぶ精神病理学者の老探偵ンティロン博士シリーズの第一弾。
 巻末の訳者の解説によると全作品が未訳で、本作が完全に初紹介の作品らしい。
 おなじみの新世代? の訳者(&クラシックパズラー探求家)白石肇が発掘翻訳した作品ということで、それだけで信頼して購入した。
 
 密室……というにはいささか甘いロケーションの殺人現場ながら、20世紀初頭当時のニューヨークの大都会の御屋敷で起きた殺人、という外連味が楽しく、訳文も快調でリーダビリティも高い。
 ミステリ史的には、けっこう恋愛要素を詰め込んだ筋運びが当時は毀誉褒貶を呼んだらしいが、個人的にはフリーマンの『赤い拇指紋』みたいな感触のメロドラマ性の強い謎解きミステリという味わいでなかなか楽しめた。
 しかし本作のいちばんの望外の楽しみどころは、偏屈医者にして老探偵ベンティロン博士のズバリ水戸光圀的なカッコ良さ。わがままを言って待合室にたむろする有閑患者は邪険にする一方、本当に必要と思える病人には手を差し伸べるプロフェッショナルぶりとか、相手の器量や実績も知らずに舐めてくる相手を眼光で威圧する描写とか、実にステキ。いやわかりやすい大衆小説的にカッコイイ爺ちゃんヒーロー探偵なんだろうけど、その剛球ぶりにホレボレしました(そのくせ、死別した愛妻にいまも純愛を抱いているらしいというさりげないメンタリティの叙述にも泣ける)。
 なんか久々に良い意味で、まったく未知の<名探偵らしい名探偵キャラクター>に出会えた気分であった。

 ミステリとしての謎解きは正直やや緩めかつ直線的でサプライズも薄く、その辺は弱いといえば弱いんだけれど、一世紀以上前の黄金時代前夜の旧作ミステリとしてみるなら、私的には十分に楽しめた一冊。まー、ほかの方がどう思うかは知らんが、個人的には本シリーズの未訳の短編のなかからよさげのものを十本くらいセレクトして、短編集でも翻訳刊行してくれればウレシイ。
 ガチな謎解きパズラーとしてはともかく、トータルとしては十分に楽しめた一冊であった。


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アーネスト・M・ポート
2025年09月
鍵かけた扉のかげで
平均:7.00 / 書評数:1