皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 戦車兵の栄光 マチルダ単騎行 |
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コリン・フォーブス | 出版月: 2024年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 新潮社 2024年12月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2025/06/06 07:41 |
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(ネタバレなし)
1940年5月。第二次大戦前半のベルギーの戦場。英国軍海外派遣部隊に所属する34歳のバーンズ軍曹を指揮官とする4人の戦車兵は、歩兵戦車マークⅡマチルダで、前線斥候の任務に就いた。だが空襲を逃れて退避したトンネルが陥落。マチルダは懸命に閉所からの脱出を試みるが、その間に前線は移動。戦車はドイツ軍の占領下のなかに取り残されてしまう。バーンズと仲間たちは火力を満載した単騎のマチルダで、友軍との合流を目指し、長い険しい道中に就くが。 1969年の英国作品。 そして海外ミステリの旧作発掘に奮闘する現在の新潮文庫、その昨年暮れの目玉作品(書店での実売が遅かったらしいので、SRの会のベスト区分では2025年の新刊扱いになったが)。 80~90年代に20冊以上? もの作品が邦訳された(ただし本サイトではまったく読まれていないが)、英国冒険小説新世代実力派の一角コリン・フォーブス、なんと31年ぶりの未訳の新刊の翻訳出版だそうである。 ちなみにこれ以前は複数の別名義でシリーズものを5冊ほど書いていた作者が初めて「フォーブス」名義で著した作品が、本書だそうな。 ここで評者も万歳三唱したいが、なにせフォーブス作品はまだ『アバランチ・エクスプレス』しか読んでないので<ああ、懐かしの作家の作品に久々に会えた!>的な感慨はそれほど伴わない。 (それでも客観的な事実として、未訳の面白い旧作が関係者の目にとまって初紹介されること自体は実に結構なことだが。) 内容は、欧州の戦場を舞台にした主人公たちの戦車のサバイバル・ランを描く直球の陸路ロードムービー風冒険小説で、矢継ぎ早に起こるイベントの連続でスイスイとページをめくらせる。翻訳は、本作同様の戦争冒険小説のほか、ロジャー・スカーレットやJ・D・カーまで手掛けている守備範囲の広い中堅~ベテランの村上和久。第二次大戦の史実分野にも詳しいみたいでその辺りの臨場感やデティルは、シロートのこちらが読む限り、特に違和感なくスムーズな感触であった。 ちなみにAmazonの紹介文では 「大自然との闘い、敵軍との遭遇。襲い掛かる試練をはねのけ、戦車はたった一輛で英仏海峡を目指す。」 なんてあるけど、少なくとも大自然との闘い云々は、実はほとんど関係ない(湿地帯でピンチになるシークエンスはあるが)。イネスの諸作とかマクリーンの『北極戦線』とかの線を期待するとちょっと違う。 それでもこなれの良いサービス精神ゆたかな作品で、序盤から終盤までおおむね物語のベクトルが透けて見える筋運びをグイグイ読ませる筆力はなかなか。 ただ一方で、この手の作品にタマにあることだけど、よく出来た全体のバランスの安定感がかえってどこか何か食い足りなさを感じさせない気分もないではない。実を言うと、先に読んだ『アバランチ~』も正にそんな感じだ。英国冒険小説の主幹にどっか汗臭さや泥臭さを求める側からすると、いささか洗練され過ぎて小気味良すぎるというか。 いや劇中の登場人物たちはまさに決死の逃避行なんだけどね。 ここではあえて評点7点。実質は8点でもいいので、ほぼ一年後のSRの会のベスト投票ではその8点で評価(投票)すると思う。 |