皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ クライム/倒叙 ] 人狩り |
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大藪春彦 | 出版月: 1971年04月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() KKベストセラーズ 1971年04月 |
![]() 新潮社 1980年01月 |
![]() 徳間書店 1993年07月 |
![]() 光文社 2003年10月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2025/06/05 05:08 |
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(ネタバレなし)
四谷二丁目に地味な事務所を構える、30歳前後の水野雅之。裏社会の一匹狼の彼は暴力団「三光組」の男・小野寺から、同組織と敵対する「大和興行」に潜入して内部工作を起こすよう依頼を受けた。水野は大和興行が経営するキャバレー「ベビー・ドール」に乗り込み、荒事師としての腕前を披露。自分を殺し屋「藤野昇」として、大和興行の代表・張本に雇用させる。 巻末に池上冬樹の詳細な解説が掲載される、光文社文庫版で読了。 双葉社の雑誌「実話特報」に1962年の3~8月にかけて連載された、大藪の初期長編。正確な書誌は再確認しなければ未詳だが、たぶん10作目前後の長編作品だろう。 あらすじを見れば歴然とするように『血の収穫』、ウェストレイクの『殺しあい』風の組織壊滅内部工作もので、さらに主人公が完全に裏社会の人間な分、ノワール度も高い(その意味ではハメットよりもウェストレイク寄りだ)。 池上の解説によるとこの時点ですでに、大藪には先行の同系列作品(組織内部工作もの)もあるらしいが、そっちは評者は未読。 例によってブックオフの100円棚であらすじや解説に触れ、面白そうだとフリで買った大藪の初期作品。で、期待通りに楽しめた。 小説は全編が三人称で綴られ、その大半が水野を主軸としたほぼ一視点で進行。水野の内面描写はあることはあるが、感情の機微に関する叙述はかなり抑制されているので腹が読めない。たとえば犯罪計画に巻き込まれた一般市民を水野がどう扱うのか(気絶させただけで済ますのか口封じのため冷徹に殺すのか)読者は即座に見極められない(どちらもありうる)ので絶えず小説には相応の緊張感が堅持される。 わかりやすい意味で実に大藪ハードボイルドらしい。 機転と謀略と裏切りと血臭と硝煙で全編が形作られた小説。そういうものを読もうと思ってページをめくったので、前述通りに十分に期待に応えてくれた作品である。 池上の解説によると<ラストは唐突という声もあるが、私(池上)はこのラストに痺れた(大意)>ともあり、評者はそのどちらにも共感できる(笑)。 正直、水野の狂気行を長々と書くのに飽きてきた作者が放り投げたんじゃないの、あるいは次の連載か書き下ろしの仕事に関心が移って、こっちはこんな感じで幕を下ろしたんじゃないの? という気もしないでもないが、とにかく出来たもの(ラスト部分)は、これはこれでまたソリッドな大藪ハードボイルドに仕上がっているとは思う。 (昭和三十年代のリアルタイムでこれを十代で読んだ当時の若い連中は、どう思ったんだろうな。) いずれにしろ、久々にたっぷりと大藪成分は補充。 またそのうち、なんか読みたくなるだろう。 肩の力が抜けた中期以降の作品もそれはそれで味があっていい。 |