海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ SF/ファンタジー ]
ブラック・ハウス
ジャック・ソーヤーシリーズ
スティーヴン・キング & ピーター・ストラウブ 出版月: 2004年01月 平均: 3.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


新潮社
2004年01月

新潮社
2004年01月

No.1 3点 Tetchy 2025/05/30 00:43
キングとストラウヴの共著第2弾。第1弾が『タリスマン』だったが本書はその続編。前作も1,000ページを超える大著だったが、本書もまた上下巻合わせて1,200ページ越えで前回を上回るボリュームだ。
『タリスマン』の主人公ジャック・ソーヤーは当時12歳だったが本書では35歳になっている。つまり23年後の世界が舞台。

第1作の時もそうだったが今回も正直どこをキングが書いてストラウヴが書いたのか解らない。しかし私は冒頭の世界を俯瞰して物語の舞台を飛び回る視点で描いているパートをストラウヴが書いたように思った。このような手法はキング作品ではあまり見られないからだ。

さて今回の物語はウィスコンシン州の田舎町フレンチ・ランディングに少年少女ばかりを襲う連続殺人鬼フィッシャーマンの正体を探るうちに町の外れにひっそり佇む黒い家(ブラック・ハウス)に行き当たるというもの。
前作『タリスマン』でも黒い館(ブラック・ホテル)がタリスマンを手に入れるこの世とテリトリーの両方に存在する建物だった。この“タリスマン”の世界では黒い建物は異世界とこの世を結ぶ象徴になっているようだ。

さてこの“テリトリー”だが前作からやや趣が変わっている。
1作目の『タリスマン』は1984年に書かれたが、その後キングが『暗黒の塔』シリーズを書きだしたからか―但し1作目は1982年刊行で2作目が1987年―、本書では“テリトリー”が“暗黒の塔”の世界と繋がりがあることが明かされる。いや寧ろテリトリーが暗黒の塔の世界と融合していることが判明する。テリトリーは境界地(ボーダーランド)でありその彼方に中間世界(ミッド・ワールド)が存在する。
従ってテリトリーの住民たちはガンスリンガー、ローランドも知っており―ちなみに放浪の黒人ミュージシャン、スピーディ・パーカーが拳銃使いとなっているがガンスリンガーではないと話す―、そしてあの謎解きが大好きな歪んだ超高速モノレール、ブレインの名も登場する。既にブレインは“自殺”した後であることから、本書の時制が『ダーク・タワーⅣ 魔術師と水晶球』の後の話であることが解る。そしてタイラーをアッパラーの許に連れて行くミスター・マンシャンことマルシャンが訪れるのがこの超高速モノレールである。

そしてこれまで断片的に語られてきた“暗黒の塔”を破壊しようと企む“深紅の王(クリムゾン・キング)”の企みが関係していることが解る。暗黒の塔を破壊するためにそれを支える〈ビーム〉を破壊する破壊者を探しており、その手下が“ミスター・マンシャン”ことマルシャン卿で彼は世界中のサイコパスを使って破壊者の素養のある子供たちを攫わせている。

これまでその名のみ知られていた“深紅の王”の名がラム・アッパラーであることが本書で判明する。『暗黒の塔』シリーズの設定が『アトランティスのこころ』やシリーズ以外の作品で補完されていくのだ。
そして最後にフィッシャーマンに攫われた少年タイラー・マーシャルこそが最強の破壊者になり得る存在であることが判明する。そして『アトランティスのこころ』に登場したブローティガンの存在も仄めかされる。彼は筆頭破壊者でこの作品ではまだテリトリーにいることになっている。
またローランド達ガンスリンガーは“暗黒の塔”と〈ビーム〉を守る存在だ。つまりタイラー・マーシャルとブローティガンはローランド達と敵対する存在であることが判明するのだ。

ところでジャック・ソーヤーの設定が1作目と変わってしまっていることに気付かされる。彼はリリー・キャヴァノーという女優の息子であり、その血を受け付いたが如く想像力と演技力で周囲を巻き込みながら度重なる苦難を乗り越えてきたのだが、本書では傾聴する能力に長けており、数々の事件を解決してきた凄腕のロス市警の元刑事という設定だ。物語の舞台であるフレンチ・ランディングの署長デール・ギルバートソンをしてエルキュール・ポアロやエラリイ・クイーンのような名探偵だと云わしめる。

このようにある意味それまでのキング・ワールドを盛り込んだオールスターキャスト的な作品だが―さすがにキャッスルロックやデリーの住民は出てないが―、本書でも前作のウルフに匹敵する、非常に印象強いキャラクターが登場する。
それは盲目のDJ、ヘンリー・ライデンだ。
彼は複数のDJネームを持つが誰もその正体を知らない。いや彼の甥でフレンチ・ランディング署の署長デール・ギルバートソンとその友人で主人公ジャック・ソーヤーぐらいである。
彼の演じるDJの1人ジョージ・ラスバンはフレンチ・ランディング一の人気DJであるが、何よりも彼は盲目でありながらまるで目が見えているように行動できるのだ。周囲の空気の流れや匂いを鋭敏な四感で感じ取り、車の運転さえもできると豪語する。そして何よりも耳が良く、彼はジャック・ソーヤーの声と話し方から彼の母親が女優のリリー・キャヴァノーであることを云い当てる。
その彼もウルフ同様、悪人の凶刃に斃れてしまうのは何とも哀しい限りだった。よくもまあキングはこんなカッコいいキャラクターを創り出すものだ。どれだけ彼の頭の中にはこんな魅力的なキャラクターが住み着いているのだろうか。

あと最近のキング作品に鳥が象徴的に登場するが共作の本書でも同様で、例えばジャック・ソーヤーが“テリトリー”からの啓示めいたメッセージを受けるのは駒鳥の卵であり、また駒鳥の羽根と思わしき赤い羽根が部屋の中に舞う。また本書のキーを握るフレッド・マーシャルの息子タイラーが誘拐された跡に残されていたのがカラスの羽根、と『ダーク・ハーフ』のスズメの大群や『骨の袋』に出てくる数々の鳥とキングは何かと鳥は凶兆を知らせるメッセンジャー的な役割として用いる。
まさかとは思うが当時ジョン・ウー監督映画が鳩が羽ばたくシーンが印象的に使われているが、それに触発されたわけではない、よなぁ。

それに加えてこの頃のキング作品にはやたらと独特な怪物が登場する。『デスペレーション』や『レギュレイターズ』では、『アトランティスのこころ』でも下衆男たち(ロウ・メン)という黄色いコートを着た男たちのように見えるが、その正体は鋭い牙と鉤爪にどす黝い舌を持ったドラゴンのような怪物が、そして『ドリームキャッチャー』ではバイラムという手足のない、しかし身体のほとんどが鋭い牙をたくさん生やした口である鼬のような怪物が登場するように本書でもブラック・ハウスの守護神のように巨大な犬もどきの怪物が登場する。それはそれまでの作品に比べて巨大な狼のような風貌をしているのみで特異な風貌をしているようではないが、その犬に噛みつかれるとやがて液体のようにドロドロに溶けてしまう恐ろしい性質を持つ。

あともう1つ気になるのが黒い家に侵入しようとするジャック達が襲われる毒気の影響だ。彼らは黒い家に近づいていくと上に書いた大きな犬ような化け物に襲われると同時に鼻血を出したり、目から血を出したり、唾と一緒に歯を吐き出すほど身体が侵されていくが、これが『トミーノッカーズ』や『ドリームキャッチャー』でも同様の描写が見られた。そして私はこれが放射能汚染を象徴しているように感じたのだが、これほど複数の作品で同様の描写を扱っていることを考えると彼は放射能、原発反対派なのかもしれない。また私は『タリスマン』の感想で強大な力を得られるタリスマンが核爆弾を象徴しているように思えると述べているが、それもここで繋がってくるのかと感じ入った。キングが核反対派であるのは間違いないのではないか。

しかし物語の結末は何とも皮肉だ。誰もが万人に愛されるわけではないことを思い知らされる。タリスマンの力を得たジャック・ソーヤーもまた例外ではなかったことを。

このキングとストラウヴが織り成す『タリスマン』の世界の続編は今後書かれることはない。しかし恐らくはテリトリーが今回『暗黒の塔』の世界と繋がっていることが判明したことから、今度はそちらでジャックのその後が解るかもしれない。
その時ジャック・ソーヤーは『暗黒の塔』シリーズでローランド達とどのように関わってくるのか。再登場するかどうかも解らないが、このジャック・ソーヤーとスピーディ・パーカー、そしてソフィーという人物たちの名前はその時のために心に刻んでおこう。


キーワードから探す
スティーヴン・キング & ピーター・ストラウブ
2004年01月
ブラック・ハウス
平均:3.00 / 書評数:1
1987年07月
タリスマン
平均:5.33 / 書評数:3