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[ クライム/倒叙 ]
死せる魂
ニコライ・ゴーゴリ 出版月: 1977年03月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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岩波書店
1977年03月

集英社
1991年03月

河出書房新社
2016年09月

No.1 8点 斎藤警部 2025/03/23 00:26
“街中で聞きかじってきたような俗語を、いきなり本の中へ叩きこんだからとて、それは作者の罪ではなく、むしろ読者が悪いのだ。第一に上流社会の読者がよくない。”

“どんな名前を考えついても、必ずわが帝国のどこかに、実際そういう名前の人がいて、ありがたいことに、その男は、かんかんに腹をたて、あいつ( 中 略 )作者はしかじかの人間で、これこれの外套を着ており、アグラフェーナ・イワーノヴナのところへ立ち寄ったとか、あいつは食いしんぼうだなどと( 後 略 )”

Oh, those Russians .. オラは、ロシアのどんな細道もハイウェイも歩き回って、元の地点に立ち戻った気になっただよ。 そうさ、この本はいつまでもだらだらと読んでいたくなる、ユーモアとロシア風箴言なり警句なり諦観には事欠かない、田舎蕎麦の様な大長篇。 妙におぼこい所のある(ように見える)人たらしの主人公 “チチコフ” が、ロシア各地を渉り、次回の人口調査まで戸籍上は生存扱いの、だが実際はに死んでいる農奴(=余計な税金の発生源)を、慈善の心から(?)、財力的にはまちまちの地主共から貰い受けよう/安く買い取ろうと旅をする。 そんな法的に際どい行為を繰り返して、いつか当局に密告されたり、告発を受ける危険は無いのか、そもそも “チチコフ” の目的はいったい何なのだ・・

「何はさて、仕事に愛着を持たなきゃだめです。それがなくては何一つ成就するものではありません。まず農業というものに打ちこまなきゃだめですーー」

「それだったら私だって金持になれる訳ですね」 とチチコフは、思わず死んだ農奴のことを心に浮かべながら、言った。「まったくの文無しから始めるのですから」

農奴の “一覧” を眺めながら、微に入り細に入りの長い妄想が良い。 ふんだんに溢れて止まぬ架空人物品評の滑稽さったらねえだね。 曲者もしっかり登場し、善意の人ともどもストーリーを掻き回してくれる。 クレビャーカだの蝶鮫だの玉子入りピローグだの根菜を煮込んだスープだのハンガリイ酒に似た上等の飲物だの、贅沢めな食事シーンの食欲を唆す事と言ったら。 花澤さんに似た名前の人とか、コシヒカリ?アキタコマチ?みたいな名前の人も出て来た、はずだ、たしか。 バープカ遊びたァいったい何だ??

<<このチチコフって男も妙な人間だなあ!>> とテンテートニコフは思った。
<<このテンテートニコフって男も変な人間だなあ!>> とチチコフも思った。

岩波にしろ河出にしろ、ミステリという範疇意識じゃないから仕方無いけど、いや仮にミステリじゃないとしても小説なのに、”チチコフ” の目的や正体について、紹介文でかなりの所までネタバレされているのはちょっと残念。 旧い古典だから許されるという認識なのだろうけど。

ところでロシア語原題 “Мёртвые души” の “души(ドゥーシー)” は “魂” と “農奴” と両方を意味する単語。 “ソウルフード” なんて言葉を連想してしまいます。
本作の第二部は、精神を病んだ作者自身が死の十日前に原稿をまるごと火にくべてしまい、草稿やメモに拠った後世の再構築努力も叶わず、とうとう中絶の形となっています。
当初の構想に在った第三部は、執筆着手もされないままだったと言います。

「ええ、そうです、自然は忍耐を愛します。 これは辛抱づよい者を嘉(よみ)し給う神おん自からの定め給うた法則です」

“ああ、ロシアよ、お前もあの、威勢のいい、どうしても追いつくことのできないトロイカのように、ずんずん走って行くのではないか?”


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ニコライ・ゴーゴリ
1977年03月
死せる魂
平均:8.00 / 書評数:1