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[ パスティッシュ/パロディ/ユーモア ] タイガー田中 公安調査局局長・タイガー田中(007外伝) |
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松岡圭祐 | 出版月: 2024年11月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
![]() KADOKAWA 2024年11月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2025/01/22 07:09 |
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(ネタバレなし)
1963年4月。日本の公安調査局長官「タイガー田中」こと田中虎雄は、英国のMI6から出向して九州で行方を断った諜報員ジェームズ・ボンドの去就を探っていた。25歳の公安調査員で、そしてタイガーの娘でもある田中斗蘭はそんななか、ひとりの人物に遭遇した。 原典尊守派パスティーシュの傑作『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』を2021年に著した作者による、007=ジェームズ・ボンド正編世界の間隙を縫った一大娯楽編パスティーシュ(贋作)。 作者が以前から大の007愛好家らしいことはウワサで聞いており(具体的なことは詳しくは知らないが)、フレミングの原作を某・長編一冊を除いて全部十代のうちに読んでしまった活字系ボンドファンの評者としては、先の『黄金仮面の真実』の完成度も踏まえて、この人ならさぞ満足のいく2020年代の新作パスティーシュを読ませてもらえるだろう! と、大きく期待が膨らむ。 で、設定の通りこの作品は『007号は二度死ぬ』の後日譚だが、同時のその直前の正編『女王陛下の007号』の続編的な性格の新作物語でもある(そこまでは語らせてほしい)。それで、できるなら本書を読む前にその2冊は読んでおいてほしい(単品でも楽しめるが、先にその2作を嗜んでおいた方が、確実に本書の面白さは倍化する)。 いや、本来ならフレミング自身に、正編の原作世界でやってほしかった<アノ趣向>やら<カノ趣向>までこの作中で実現させ、その辺の目配せぶりは確かに最高に良い意味で、原典の<本物のファン>ならではのオマージュぶり。 特に中盤、順を追って劇中に顔を見せる二大メインゲストの登場には、007ファンとして熱い感涙で頬を濡らした(特に、後から出て来る方に)。 一方で原作世界で……(中略)という種類の大技のアレやコレやは、これって肯定していいのかな、まあパスティーシュも広義のパラレルワールドものだしな……という割り切りを要求するのだが、一方であくまで原作世界の叙述を損壊せず、ほぼちゃんと<正編の間隙にありえた、アントールドストーリー>として成立させている、そこが大人の芸。 うん、この作品はそれだからこそ、面白い。 まあどっかオールスターものというか「スーパーロボット大戦」的なお祭り作品の面白さでもあるんだけど、それはソレとしてタイガー田中と某・メインゲストキャラの交流のくだりとか本気で胸が熱くなる(あ、やっぱ、その辺は「スパロボ」的な作品の魅力だ。複数のタイトルの混載ではなく、あくまでワンコンテンツ内のパスティーシュではあるのだけれど)。 で、話がソウなってソウ流れるんなら、このパスティーシュの物語はどのように次の正編『黄金の銃を持つ男』にリンク……? というのが次第に大きな興味になってくるが、その辺もかなり鮮やかに、本作はこなしてくれている。 作者のマジメさがやや前に出て、しかもオリジナルキャラで実質そっちサイドでの主人公ヒロインの斗蘭の活躍にも相応に比重が置かれた分、いわゆる醤油味の海外ミステリパスティーシュになっている印象もちょっとだけあるんだけど、それでも新旧東西のオールタイム007パスティーシュの上位クラスに入る出来なのはもう間違いないね。 (途中、妙なミステリトリックが使われているのも作品の個性だ。) まー個人的には、ウワサに聞く「スター・ウォーズ」サーガの新作ノベル(多少購入はしてるが全く読んでない)で、映画正編で(中略)した(中略)がそのノベル世界ではやっぱり(中略)なんてのを聞くと、そこで、う~ん……と思っちゃう方なので、この作品もそーゆー面が無きにしも非ず、ではある。まあその辺は(リフレインになるけど)やっぱパスティーシュは、正編から分岐した広義のパラレルワールド作品、という割り切りで呑み込むのがよいか。 まあそーゆーのが全く受け入れられないのなら、最初からこの手のパスティーシュはことごとく回避すればいいんだけど、困ったことに自分は一方でなぜかこーゆー、よくできた、書き手の愛情たっぷりの、そしてなにより正編世界に気を使ったパスティーシュが大好きだったりする。 次作『続・タイガー田中』の設定は、正編の時系列がすべて完全に完結した後、『黄金の銃を持つ男』の後日譚だそうで、そっちも楽しみにしよう。 (下馬評で聞こえてくる大ネタが正直、ちょっと不安だけど、まーこの作者様なら、うまく捌いて下さるでしょう。) 最後に、本書の巻末にはかなり丁寧な解説がついてるけど、007ファンや先にタイトルを挙げた作品を既読ならその解説部分は先に読まない方がいい(嬉しいサプライズを楽しみたいでしょう?)。 だがもし、007にあんまり詳しくないというのなら、この新作パスティーシュの種々の仕掛けを理解するという意味合いで、本編の前に目を通しておくのもいいかもしれない。 いや、いちばんいいのは劇中で何かソレっぽいイベントが生じるたびに、少しずつ解説を覗くことかな? |