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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
コンコルド緊急指令
ケネス・ロイス 出版月: 1980年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
1980年08月

No.1 7点 人並由真 2025/01/08 17:54
(ネタバレなし)
 元SAS(英国陸軍の特殊空挺部隊)で28歳の青年ロス・ギブスは、欧州で活動するテロリスト集団に参加。だがそれは敵を欺く芝居で、本来は英国情報部に属するギブスは、次のテロ活動の狙いを内偵するため一味に潜入していた。ギブスの上司であるジョージ・バナーマンは、テロ一味にギブスへの信頼感を植え付けるため、英国に来訪したCIAの大物ポール・クレイブンの死を偽装し、それがテロ活動に奉仕したギブスの仕業のように見せかける。作戦が成功してギブスとテロ一味の絆が深まるなか、秘密の謀略が動き出した。

 1980年の英国作品。
 70年代末から90年代にかけて日本に数冊の長編が紹介された英国のベテランスリラー作家ケネス・ロイスの、邦訳二冊目。原書刊行と同じ年に翻訳された、かなりのハイスピード邦訳。

 内容はエスピオナージ風の大枠で語られる、プロ工作員を主人公にした冒険小説。全体的にお行儀がよい作風で、主人公ギブスのキャラクター造形はこの上なく健全な性格設定。
 セックスの匂いをまったく感じさせないどころか、捨て猫を拾って無心の愛情を傾けるこの手の主人公は初めて読んだかもしれない(内容が内容だけにこの子猫がどっかでひどい目に会うんじゃないかとヒヤヒヤしたが、最後まで無事。それどころか、事件の被害者に対して、ちょっとした心の癒し役も務める)。
 その分、諜報世界でのダーティな職務はギブスの上司でサブ主人公格の中年バナーマンが請け負い、特に前半~中盤にかけてはその辺の叙述がひとつのヤマ場になる。
 暗殺仕事をギリギリまで回避したいギブスの心情を尊重し、バナーマンがかつてテロ事件で父親を殺された射撃の名手の青年を動員するあたりも、そこまで準備を整えるものか? と思いつつも、妙なリアリティがある。ストレスの尋常でない前線だけに、実働する工作員への入念なケアは大事だということか。

 大筋プロットにおける興味は、一体くだんのテロ組織の計画は何だ? だが、邦題ではそれが高速旅客機コンコルドに何か絡むことを割っている(原題は「The Third Arm」で、劇中でその意味がそっと語られる)が、詳しい事はストーリーの後半に行くまでわからない。

 前述のように全体的に洗練された品格の良さがあるスリラーだが、話は好テンポで進み、面白かった。任務の最中のなりゆきで、子猫の件に加えて可愛い女子大生と素で恋仲になるギブスにはちょっと苦笑したが(万が一、正体がばれて人質にされたり、報復の対象にされたりしたらどうするんだ)、不満はそこだけ。
 作品はシリーズ化できそうな雰囲気もあったが、単品で終わったらしい? 
 今回は書庫のなかでたまたま見つかった未読の一冊を読んでみたけど、またそのうち別のロイス作品も手にしてみよう。
(他の作家で言うならジェラルド・シーモアとか、あの辺のランクかなあ。)


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ケネス・ロイス
1980年08月
コンコルド緊急指令
平均:7.00 / 書評数:1