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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
砲艦ワグテイル
ダグラス・リーマン 出版月: 1985年12月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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KADOKAWA(角川マガジンズ)
1985年12月

東京創元社
1988年02月

No.1 8点 人並由真 2024/12/17 16:09
(ネタバレなし)
 1950年代。中国では1949年に共産党の中華人民共和国が誕生し、敗北した対立組織、国民党の大勢は台湾などの外地に逃れていた。そんななか、数千人の中国人が住む東シナ海のサンツ島は国民党のチェン・ベイ将軍が統治していたが、そこについに中共の大軍隊が迫るらしいことが、香港経由で英国政府にもわかる。サンツ島には今も十数名の英国人が暮らしており、香港の英国領事館は海軍との連携で、本格的な開戦前に英国人の島民の緊急脱出作戦を開始。現在の英国海軍で最も老朽艦で、全長150フィートの砲艦ワグテイルを島民の救出作戦に向かわせる。ワグテイルを率いる艦長ジャスティン・ロルフは、本来は傑出した海軍軍人ながら、さる事情から懲罰人事で老朽艦ワグテイルを任された男。ロルフは30人強の乗員とともにサンツ島に向かうが。

 1960年の英国作品。
 作者ダグラス・リーマンは、アレクサンダー・ケント名義で「海の男」リチャード・ボライソーも著したイギリス海洋冒険小説の雄の一角。リーマン名義でも20冊近い邦訳(うち三冊はシリーズものというか三部作)があるが、なぜか? 本サイトにもこれまで登録もない。
 かくいう評者も実は今回が初読みで、今から16~18時間くらい前に近所のブックオフの100円棚で創元文庫版を手に取り、その裏表紙のあらすじ設定を見て、面白そうだなと買ってきたばかりだった。そうしたら何となく興が乗って昨夜すぐ読み始め、大変、満足した。

 主人公のロルフ艦長は年齢設定は未詳だが、たぶん30代半ばくらいの大男で、海軍軍務の就役中に元・美人モデルだった愛妻に浮気されて離婚し、その心の傷から酒でダメになりかけた、元私立探偵カート・キャノンみたいな男(当然、この手の文芸設定として、そういうトラブルに苛まれるまでは有能な海軍軍人だった)。懲罰人事を受けた海軍でのやらかしは、その件自体には直接の関係はないが、下り坂になりかけた人生での流れだったことは類推できるようになっている。

 弱点を抱えた男性主人公の再起、老朽艦という主役メカ、緊急避難指示でトラブルが予想される島からの民間人の脱出行、と設定は王道、登場人物の配置も図式的ではあるのだが、それらを認めた上で、キャラクターや設定の使いようが非常に達者な作品。
 良い意味でその役割の人物は物語的に期待されることは全部やってくれるし、さらにその上で随所にどんでん返しやヒネリもある。

 島に行くまでになりゆきからの海戦のひとつもあるのだろうと予期していたら、あっという間に目的地サンツ島に着いてしまったが、そこからの民間人の島民を迎えた、さらに中共軍との戦禍にさらされる島の現地人たちにからめた作劇が読み応えがあった。いや落ち着いてみると良くも悪くも、その辺もまた正統派で王道の筋立てかもしれんが、いずれにしろシーンからシーン、局面から局面への繋げ方が達者。読んでる間は本気で9点あげてもいいかなと思ったほどだ。
 十分な満足感のまま数時間かけてほぼイッキ読みし、ひと晩寝て頭が冷えた今になると「とても良くできた作品」ゆえの逆説的な、あと、ほんのひとさじの物足りなさを感じないでもないのだが(かなりゼータクだ)、もちろん十二分に優秀作の一冊。

 20世紀の英国冒険小説なら、イネスもマクリーンもヒギンズもダンカン・カイルもジェキンズもトルーもフォーブスも、そしてクレイグ・トーマスも、まだまだ未読の(または再読したい)作品はいくらでもあるのだが(大体ほとんど、主要作品は読み終えたといえる作家はバグリイやライアルくらいだ。それだって厳密にはまだ未読作があるが)、今後はリーマンもその視野に入れよう。いつになるか知らないが、チビチビ消化していきたいモンで(汗)。


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ダグラス・リーマン
1985年12月
砲艦ワグテイル
平均:8.00 / 書評数:1