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[ ハードボイルド ]
友よ、静かに瞑れ
北方謙三 出版月: 1983年08月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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角川書店
1983年08月

KADOKAWA
1985年02月

No.1 8点 斎藤警部 2024/12/07 00:17
「父親のために闘える、最後の機会でしょう?」

この北方謙三は怒っている。 最初から怒っている。 そう見えたのは、主人公が知的な職業に就く知的な人物であること、端的に言えば主人公が◯◯であることが暫く隠されているのが原因かもしれない。 また主人公の親友が◯◯である事も、こちらは折返し地点まで隠されている。 後者は、主人公の行動を支える強力なモチベーションとなっている。

「夏に、父と二人だけでキャンプに行きました。 その時、買ったんですよ」

殺人未遂の容疑で “親友が留置場に収容された” との報せを受けた主人公は、親友の無実と逮捕の不当性を信じ、彼の釈放に向けて工作すべく、山陰の小さな観光地を訪れる。 親友の経営するホテルには、彼の現在の妻と、今は亡き元妻との間に生まれた少年期の息子がいた。 この亡き元妻こそ主人公と結婚する筈の相手だった。 親友の現在の妻には芸者の妹がいる。 詳細は省くが、このあたりの上手な人物配置は、主人公の気持ち周りに生々しい空気が生まれるのを絶妙に中和、抑制していると思われる。

主人公は “親友” が “その時” に本当は何の目的で何をして、その身に何が起こったのか、そして町中に何が起こっているのかを、私立探偵の様に探りに掛かる。 町中の様々な所で煙たがられる。 親友の経営するホテルを吸収合併しようと目論む暴力組織がある。 彼らは警察のキーマンをも抱き込んでいる様だ。 組織には敵対する相手方がおり、その構図には対立、内紛、第三極の動きが垣間見える。 ストーリーは智慧と勇気と暴力とを起爆剤に素早く巧みに展開するが、肝腎の ”親友” の姿は、息子を初めとする登場人物の言葉を通してでしか、一向に見えては来ない。

主人公と同等、或いはむしろ凌いでしまうくらい魅力ある奴もいた。 嫌な奴も含め、それでも小説的に魅力ある登場人物が町の要所要所に蠢き、日々を送っている。 意外な奴がキチ◯イ級の残酷さを見せたり、土壇場の救世主ぶりを発揮したり、友情の正面突破に蛮勇を奮ったりする。 そしてやはり、主人公の盤石な人たらしっぷりは光を放つ。

「やけに眩しいな。 (中略) サングラスでも買うとするか」  ← このセリフ、沁みたねえ

沈黙佳し。 会話佳し。 暗闇カーチェイスもまた佳し。
熱い抑制が効いた結末の、重さと、秘めた光明で、突き上げるように一篇の上等な作品が仕上がったのだと思います。


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