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[ クライム/倒叙 ]
夜の人々
エドワード・アンダースン 出版月: 2024年03月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
2024年03月

No.1 7点 人並由真 2024/06/18 16:53
(ネタバレなし)
 その年の九月十五日、オクラホマ州の州立刑務所を三人の長期受刑者が脱獄した。彼ら、44歳のTダブ・メイスフェルド、27歳のボウイ・バウアーズ、35歳の「三本足指」チカモウ(エルモ・モブリー)は知己の縁者などを頼りながら捜索の目を逃れ、得意とする銀行強盗の計画を練るが……。

 1937年のアメリカ作品。
 
 チャンドラーが私信のなか(たぶん「レイモンド・チャンドラー語る」の中に収録されているものだと思う。確認してないが)で賞賛したというクライム・ノワールで、主要人物の犯罪者トリオのなかで一番若い青年ボウイを主人公にした青春犯罪小説の趣も強い。

 原題は「おれたちとおなじ泥棒(市民から搾取する、体制や上流階級の人間を揶揄する意味)」だが48年に邦題『夜の人々』の題名で映画化(今回のこの発掘邦訳の書名もその映画のタイトルから採られた)。さらに74年にはかのロバート・アルトマン監督によって『ボウイ&キーチ』の題名で再映画化されている。
 なおまったくの余談(というかぢつにどうでもいい話)ながら、評者の少年時代の友人に「キイチ」というあだ名の級友がおり、塙保己一やこの映画(74年版)をネタにからかった記憶を、読んでいて思い出した。

 こなれた訳文の良さもあり、ハイテンポで物語は進むが、ところどころの主人公トリオサイドの悪行を直接描写しない省略法の叙述的演出が効果をあげている。
 読み進めるうちにおのずと感情移入してしまう主人公たちが、読者のよく見えないところで、やってはいけないことをしてしまう(基本的には殺傷はしたくないが、逮捕などを逃れるためにはやむをえない)。あらためてさらに深みにはまっていく図を逆説的に強く印象づける描写の累積が、切ない。
 中途に挟まれる、事態の大きな展開を「客観的」に語る新聞記事の挿入という手法も活きている。

 良くも悪くもクラシック・ノワールの枠内に留まる作品ではあるが、最後まで読んで得られるある種の感慨も鮮烈。なるほどメインヒロインのキーチって<そういうポジション>の女子キャラだったのね。
 あとから考えると、脱獄犯が生じたなら、警察はもっと積極的に家族や親族に捜査の目を向けるだろうとも思ったりもしたが。
 
 読む前は大設定から普通に? J・M・ケイン辺りの作風を予見していたが、文体そのものはサバサバしている一方で、カメラアイが追いかける事象の湿度はずっとそのケインなんかより高い。通読してのいちばん近い食感は、ハドリイ・チェイスの、かの作品であった(こう書いてもなんのネタバレにもならないと思うが)。
 
 読んで、というか嗜んでおいて良かった、と思える一冊。
 新潮文庫の発掘本作路線、またひとつ有難い収穫であった。


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エドワード・アンダースン
2024年03月
夜の人々
平均:7.00 / 書評数:1