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[ 本格 ] 日の名残り |
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カズオ・イシグロ | 出版月: 1990年07月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
中央公論新社 1990年07月 |
中央公論新社 1994年01月 |
早川書房 2001年05月 |
早川書房 2018年04月 |
No.1 | 7点 | ALFA | 2024/06/15 12:29 |
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作家カズオ・イシグロの名を不動のものにした作品。無論ミステリーとして書かれたものではない。
由緒ある屋敷の執事スティーブンスは、再雇用のために元の女中頭ミス・ケントン(現ミセス・ベン)を訪ねる。6日間のドライブ旅行が独白体で綴られるが、過去30年に及ぶ屋敷での想い出が挿入されるから物語の奥行きは深い。 内省的な独白の中に精妙な詐術が仕掛けられている。スティーブンスの自己欺瞞や巧みな言い訳が初読時にはかすかな違和感として、再読時にはレース編みのように透けて見える。最後に主人公は、自身の頑なさのために幸せを逃していたことに気づいて涙する。 旅の終わりに浜辺で出会った元同業者に励まされ、新しいアメリカ人のご主人のためにジョークを「練習」しようと決意するエンディングが可笑しい。 身につかないジョークを練習する老執事にも、まもなく孫に恵まれるミセス・ベンにもしばしの残光が射すだろう。こうして表題を回収して物語は閉じる。 スティーブンス個人の物語であると同時に、執事として仕えた対ナチス融和派ダーリントン卿の破滅を通して大英帝国の衰退を描く全体小説にもなっている。 小説としては満点だがミステリーとしては控えめにこの評点。 |