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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ]
小鼠 ニューヨークを侵略
小鼠(グランド・フェンウィック大公国)シリーズ/旧題『ニューヨーク 侵略さる』
レナード・ウイバーリー 出版月: 1968年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
1968年01月

東京創元社
1976年12月

No.1 6点 人並由真 2024/04/06 16:11
(ネタバレなし) 
 世界が、核兵器を用いた第三次世界大戦の到来を危惧する時代。わずか人口6000人弱の小国で北アルプス山中にあるグランド・フェンウィック大公国は、国の名産でほぼ唯一の外貨獲得の手段であるワインの不作にあえいでいた。弱冠22歳の若き女王グロリアナ十二世は、大国アメリカから財政援助を得るため、我が国内に共産主義者がいるとデッチあげる案を採択。自由主義を信奉する大国から、共産主義者を弾圧しますとの名目で、援助を求めようとした。グロリアナは、偽の共産主義者となる役を28歳の森林レインジャー隊隊長タリイ・バスコムに任せようとするが、そのタリイはいっそアメリカを侵略すればと突拍子もないことを言い出した。タリイの侵略案は議会内でさらに発展。世界各地の、第二次大戦国を経た敗戦国がアメリカから復興支援の形で多額の経済援助を受けた事例に倣い、わざとアメリカにケンカを売って敗退し、援助を得ようということになる。かくして貧弱な14世紀当時の武具に身を包んだタリイたちの一団がチャーターした帆船でニューヨークに乗り込むが、そのころアメリカはアメリカで、人類史でも未曽有の事態を迎えていた。

 1955年のアメリカ作品。作者L・ウイバーリーによる「小鼠(またはグランド・フェンウィック大公国)」シリーズの第一弾。

 1962年のキューバ危機などをしばらく先に控え、世界中が核戦争の可能性という悪夢と東西両陣営の対立の深化、アメリカ自由主義経済の拡張などで騒がしかった時代のど真ん中で書かれた、風刺色全開の作品。
 大国の経済援助を得るため奇策に走る大公国のドバタを描く一方、アメリカ側でも異才の科学者フレデリック・コーキン博士が水爆を超える威力の新爆弾「Q爆弾」を発明。二条の物語はやがて絡み合い、さらなる大騒ぎに発展してゆく。

 評者は本書のことは、たしか一番最初は1970年代に、石上三登志の名著「地球のための紳士録」の本文記事の雑誌連載時に知った。設定のサワリだけ聞いてもスットンキョウで面白そうな作品だと当時から思ってはいたが、実作を読むのは今回がようやっと初めて。とはいえ当然のこと? ながら、世の読書人・世代人の中では相応に人気があった一冊のようである。

 核戦争におびえる1950年代という時代に密着した作品なのでそういう意味ではいま読むとさすがにいろいろと隔世の感はあるが、一方でこの種の寓意性を語る作品ならではのある種の普遍性も感じさせ、そんな意味ではいま読んでもフツーに面白い。たぶんそうなるんだろうな、という読み手の期待に応えた、主要人物たちの明朗でどこかユルいラブコメ模様も味わいどころのひとつ。
 お話の展開はリアルに考えれば都合よすぎるというか、やっぱりユルめなところもあるが、要はおとぎ話みたいなストーリーなので、その辺はまあまあ許容範囲。というか、こういう作品の場合、こういうノリが似合っているでしょ。
 2020年代のいまはじめて素で読むと、話の進め方に良くも悪くもお約束の部分も目につき、本当にわずかばかり弛緩した筋運びの部分もないではないが、全体としては愉快でスパイスの効いた戯作風のポリティカル・フィクション
(といっていいのか)。
 当初から、読み手が当時の時代の空気と付き合う心構えで読めば、十分に楽しめる。
 
 なお作者にはレナード・ホールトン名義で、ロサンゼルス在住の聖職者ジョゼフ・ブリダー神父を主人公にしたミステリも10冊以上、あるらしい(まったく未訳)。この作風と作家的な手腕なら、そっちも相応に面白そうなので、シリーズの一冊めか、あるいは評判のいい作品を今からでも発掘翻訳してくれないものだろうか。


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レナード・ウイバーリー
1968年01月
小鼠 ニューヨークを侵略
平均:6.00 / 書評数:1