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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
戒厳令の夜
五木寛之 出版月: 1976年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1976年12月

新潮社
1978年08月

新潮社
1980年03月

講談社
1981年05月

No.1 7点 人並由真 2024/04/03 06:56
(ネタバレなし)
 1973年。かつて現代美術研究者の道を志しながら学生運動にからんで夢を挫折し、今は雑誌「映画旬報」の編集者として活動する37歳の江間隆之は、九州のバーの店内で一枚の絵画に出会う。それは1930年代にごく限られた相手のみを対象に創作を続け、しかしその芸術性の真価はパブロ・ピカソほか偉人たちから高い評価を受けた、チリの異才の画家パブロ・ロペスの作品に間違いなかった。だがロペスの限られた実作は1940年にナチスに奪い去られ、その後行方不明になっているはずである。江間は6年前のスペイン旅行時に知己になった「九州浪人」(純粋右翼の大物)・鳴海望洋老人に支援を求めて事態を探る一方、恩師である美術学者・秋沢敬之助助教授から、改めてロペスの情報を授かろうとするが……。

「小説新潮」の昭和50年1~12月号にかけて連載された、作者の代表作のひとつの現代伝奇ロマン&国際冒険スリラー。

 元版刊行当時のSRの会の年度ベスト投票の国内部門で、たしかかなり良い順位をとったはずだが(その年度の1位だったかもしれない?)、その時点でのコドモの自分は、上下巻二冊のハードカバーなんか読むこともなかった。
(というか、当時の自分は何となく五木寛之がキライであったような気がする。たしかその理由は『幻の女』なんて、アイリッシュファンの少年を小馬鹿にしたような題名の著作があったからである・汗←だったら横溝正史も怒れよ。)

 とはいえそーゆー(当時のSRで)高い評価を得た作品、それはそれで心に引っかかり、いつか読もうとは思っていた。
 が、適当な値段の古書に出会えず(図書館のボロボロの本はあまり読む気になれなかった)、昨年になってブックオフで講談社の「五木寛之小説全集」版の上下巻を、箱付き&それなりの美本(当時の特製シオリも残ってる~月報の類はなかったが)で、各220円で入手。

 で、ようやく購入から半年以上経った今夜、いっきに約4~5時間かけて読む。
 ちなみに上下巻あわせてたしか原稿用紙1200枚ほどの大長編のハズで、それをこの比較的短時間でいっきに読めたのだから、作品全体の求心力だけは、確かにあったということになる。
 もちろん登場人物たちの思考のありよう、作中の事象の描写など昭和的な部分はいっぱいあるが、それは織り込み済みで了解……というか、そういう時代性も旧作の味わいとして楽しもうという心構えもこっちには元からあったので全然気にならない、というか、ある意味で歓迎。

 で、お話の方も、キャラが立った人物たち(特に、生前の夢野久作とその父とも面識があったという設定の鳴海老人がステキ。まあ、いささか一部の人間が、お話のコマ的に都合よく動くところはあるが)が、<突如、日本に現れた幻の絵画の謎>を探っていく前半はメチャクチャ面白い。途中までなら評点9点あげようかと考えたところ。
 が、しかし、中盤から小説的な厚みを作者が求めて叙述の対象の画角を広げすぎ、日本という国家やサンカなどの文明論を組み込むあたりから、作品の毛色が良くも悪くも変わっていく。
 正直、後半からの、超人的な登場人物が複数出て来るあたりは、良くも悪くも、イカれ出した時期以降の西村寿行の長編みたいな味わいであった。
 まあ100%否定はできず、そこら辺も文芸としての賞味ポイントにしているのはたぶん間違いないんだろうけど。

 三人称描写の叙述ながら、基本、主人公の江間のほとんど一視点で話が進み、設定上は数十年単位で日本にも世界の各地にも広がる物語が、基本的にその江間を軸に語られる構成だったのは良かった面とそうでない面が混ぜこぜ。
 たしかに話の流れにまとまりがあって読みやすかったけれど、設定の裾野が自在に広がるくせに、追いかける叙述のカメラがそれに付き合えずモタモタしている感もあった。特に後半の某メインキャラの退場のくだりは、あれで良かったのだろうか? 

 それでも山場のシークエンスは最後まで読者をハラハラドキドキさせるネタを用意し、その上でうまく着地させた実感は大きい。
 途中はアレっぽいけど、終わりよければ……ではある。

 あー、ウン十年目にして、ようやっと読んだわ(笑)。
 なんとなく思っていたものとは4割くらい違ったけど、それなりには良かった、とは思う。 


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