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[ コージー ]
黒い羊の毛をきれ
計理士ジェームズ・ホイットニー(ホイット)
デイヴィッド・ドッジ 出版月: 1957年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1957年01月

No.1 7点 人並由真 2024/03/10 08:13
(ネタバレなし)
 サンフランシスコの34歳の計理士ジェームズ・ホイットニー(ホイット)は、成功した羊毛業者の富豪で60歳代のジョン・J・クレイトンから相談を受ける。その内容は、ロサンゼルスで羊毛業の支店を任せているクレイトンの息子で30歳のボッブ(ロバート)・クレイトン、その周囲の金の動きに不審があるので、密な監査をしてきてほしいというものだ。LAに向かったホイットはすぐに現地でボッブに接触するが、妻子ある当人がギャンブル(賭けトランプなど)で身を持ち崩しかけているのを知った。ホイットはボッブを蟻地獄に引き込むギャンブラー集団や悪女らしい女の影を認めて手を打とうとするが、決定的な対抗策は決められない。そんなホイットの奮闘を応援するように、SFから、恋人である未亡人のキティ・マクレードが彼の後を追ってきた。だがそんな二人の周辺で、思わぬ殺人事件が発生する。

 1942年のアメリカ作品。

 ヒッチコックの映画『泥棒成金』の原作者として日本で(少しは)知られる作者ドッジの、全部で4つの長編が書かれた「税金専門の計理士ジェームズ・ホイットニー」シリーズの第二弾。
 日本ではドッジの作品は、ノンシリーズものの『泥棒成金』と、本シリーズの途中のこの長編しか紹介されてないが、ホイットものの第一作「Death and Taxes」(1941年)の作中でホイットの仕事上のパートナーだったジョージ・マクレードが殺され、その妻キティが事件の解決を経てホイットの彼女(シリーズ上のヒロイン)になるらしい。どうやら作者は第一作作中のイベント(殺人事件)を大設定に据えてその上で、ニック&ノラやジェーク&ヘレンみたいな夫婦探偵ものの、変奏的な文芸を狙っていたようである。

 評者は少年時代に、大昔のミステリマガジンのバックナンバー(古本屋で入手した)で小林信彦がユーモア・ミステリの特選5作のひとつにこれをあげていたことを認知。いつか読もうと思いつつウン十年経ってしまったが、ようやく読了。

 でまあ、読後の感想としては、こなれた翻訳の良さもあって文章そのものはめちゃくちゃ読みやすいし、登場人物もそんなに多くない割にひとりひとりがくっきりと描かれていて好ましい。そういう意味では全体的に悪くない感触。

 ただその一方で物語の中盤まで事件らしい事件が起こらず(イカサマギャンブルを探るという程度の事件性はあるが)、いささか退屈。
 かたやさすがにソコを売りにするだけあって、ホイットとキティのラブコメっぽい模様だけはそれなりに面白い(小林信彦は、ヒロインが未亡人という文芸だけでも、オトナの読み物的な風格を感じさせる、という趣旨のことを語ってたはずである)。

 物語の半ばで殺人事件が起きて、ストーリーがミステリらしい方向に転調してからはいっきに話が(それなりに)引き締まり、以降の動きのある展開も悪くはない。後半はなかなか面白くなり、最後の犯人の正体もけっこう意表を突かれた思いであった。
 あと、ここではあまりはっきり言えないし、また解説で中島河太郎がネタバレしちゃってるけど、通常の謎解きミステリとは一風変わった<ある趣向>をもうひとつ、解決部分で盛り込んであるのも好ましい(まあ本作より前にミステリ史上で、前例はあるギミックなんだけどネ)。

 評点は、前半はちょっとかったるめながら、おおむね居心地の良かったマイナー作品ということでヒイキして、0.5点オマケ。

 これも「世界推理小説全集」のなかで文庫化されていない一作。
 個人的にその手の(世界推理小説全集に入ったものの、文庫化されてないものという前提の)マイナー作品のシリーズで、もっと未訳作を発掘翻訳してほしいものを希望度の高い順番通りにあげれば

①『閉ざされぬ墓場』の 犯罪研究学者サイラス・ハッチ シリーズ
(フレデリック・デーヴィス)
②『おうむの復讐』の 青年刑事「ボニー」ジミー・ダンディー シリーズ
(アン・オースチン)
そして③番目がこの
計理士ジェームズ・ホイットニー(ホイット) シリーズ 

 ……というところかなあ。

 いつかみんな、どこかでもういちど陽の目が当たればいいなあ、と夢想する(笑)。


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デイヴィッド・ドッジ
1957年01月
黒い羊の毛をきれ
平均:7.00 / 書評数:1