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[ SF/ファンタジー ] 黒猫になった教授 |
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A・B・コックス | 出版月: 2023年09月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
論創社 2023年09月 |
No.1 | 5点 | 弾十六 | 2024/01/30 21:29 |
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1926年コリンズ社出版、とくればアガサさん『アクロイド』と同期。 初版のブックカバーを見ると(dustjackets.com参照)直近出版のDetective Novelsとしてちゃんと『アクロイド』が紹介されている(ほかにクロフツ『チェインの謎』とLynn Brock "Coronel Gore's Second Case"が挙げられている)。バークリー名義で同年に『ウィッチフォード』をコリンズから出版しているが、この小説の後なのか。残念ながら『ウィッチフォード』初版のブックカバーはWebに無かった。(昔、Webにバークリーの詳細なBibliographyがあったが、今回探したら全然見つからなかった。複写しとけばよかった…)
本作は探偵小説ではない。ほんわかユーモア小説。バークリーっぽさを期待すると失望するでしょう。失敗の主因は作者が猫好きではないことかも。展開はパッとせず、ヒラメキも感じない。笑いも少なめ。冒頭の科学設定など全然こなれていない。ガストン・ルルーのスタンジェルソン教授の研究みたいなものだ。 まあ私は1920年代の英国が感じられたのでこの小説には満足しましたよ。でも女性がたくさん出てくるけど、全然上手くない。やっぱりバークリーに女性心理は理解できないんだなあ、と感じました。 以下トリビア。 原文が入手出来なかったのでとても薄口。翻訳はこなれてないところが散見されるけど、なかなか健闘してます。 作中現在は不明なので出版前年の1925年としておこう。価値換算は英国消費者物価指数基準1925/2024(76.19倍)で£1=14227円。 p14 セント・ジョンズ・ウッド◆バークリーの屋敷があったようだ p16 週三ポンド p16 年に五十ポンドのささやかな給料◆週三ポンドなら年でざっと百五十ポンドにはなるが… 簡単な計算すら出来ない、という表現か? p17 使用人は一人だけから始めよう◆ちゃんとした家庭なら必ず使用人がいる、という時代 p17 風刺漫画雑誌をあちこち当たれ(ヴィーデ・パシム)◆よくわからない。ラテン語だというが… p35 広告 p39 年におよそ五百ポンド p55 ひどいコラム… 三十シリングになる p78 モーニング・ポスト紙◆The Morning Post ロンドンの有名新聞 p86 使用人を雇えるくらいの甲斐性◆p17参照 p115 カールトン・ヴェイル◆Carlton Vale ロンドンに実在する地名。調べていないが、ここら辺の地名は全て実在するものだろう p133 子供の頃から探偵小説を愛読 p135 肉屋の少年… カンタベリー産の子羊の肉を配達 p139 ガス会社◆ああなるほど。そういう家もあるんだね p152 オックスフォード靴 p166 燻製ニシン p188 イスラム教の舞踏修行僧◆原語Dervish? 旋回踊りで恍惚となる p189 紙幣◆話の流れから1ポンド札だろう。当時のは1917-1933通用の£1 3rd Series Treasury Issue、茶と緑色、151 x 84mm。 p191 セブンダイヤルズ p202 安っぽい喫茶店 p214 リップ・ヴァン・ウィンクル p220 ドルリー・レーン劇場のパントマイム版◆黙劇ではなく、英国パントマイムPantoのことだろう。コメディアデラルテが源流のドタバタ劇。Web記事「英国パントマイムはちょっと特別!? HE’S BEHIND YOU!」を参照のこと(ドルリー・レーン劇場でのパント公演1899年Xmasのポスターあり) p220 フランスの茶番劇 p221 電話帳◆原語directoryだろう p222 日刊紙◆夕刊紙ではないところがミソ p238 ミュージックホール p269 拘置所… 勾留されて悪影響を受けた◆当時、社会問題になっていたのか p292 "軽騎兵旅団の突撃"◆クリミア戦争中のエピソードThe Charge of the Light Brigadeのことか。テニスンの詩(1854)で有名 p299 ビリングスゲート魚市場◆Billingsgate Fish Market 乱暴で下品な言葉遣いで有名 p305 <彼はいいやつだ!>◆"For He's a Jolly Good Fellow" is a popular song that is sung to congratulate a person on a significant event, such as a promotion, a birthday, a wedding, a retirement, a wedding anniversary, the birth of a child, or the winning of a championship sporting event.(英Wiki) なるほど、そういう場面で合唱するんだね。英国では19世紀半ばから流行 p318 国教会が出す結婚特別許可証◆原語が知りたいなあ… 事前に申請して許可が必要なんだろうか <オマケ> 論創社さんには大感謝。こんな作品を翻訳出版いただけるとは!ABコックス名義の二冊目があるなんてねえ。予告されてるルーファス・キング『時計の殺人』もとても楽しみ。戦前ロラックさんもぜひお願いしたいなあ。 |