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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 権力の朝 |
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レオナルド・シャーシャ | 出版月: 不明 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
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No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2023/01/20 09:17 |
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フランチェスコ・ロージ監督の映画「ローマに散る」って評者大好きでねえ。ポリティカル・サスペンスの名作だと思うんだけども、なぜか「ソフト化されない名作」としても有名である。とはいえ今時なら YouTube で英字幕でいいなら見れるから、先日見た。なのでその余勢を駆って原作のこれ。
裁判官が狙撃されて殺される事件が相次いだ。捜査を命じられた名刑事ロガスは、動機に誤審事件があるものと見て、妻の毒殺に失敗して刑務所に入った薬剤師クレスの行方を追うが、裁判官の射殺事件は止められない。目撃者の証言から過激派学生の犯行の線が浮かび、事件は公安警察の手に移ることになりロガスは外されるが、監視していた最高裁長官が政府高官たちと密談しているのを目撃したロガスは、大きな陰謀が背後で動いていることを予感する....ロガスは野党共産党の書記長に逢う約束を取り付けるが... という話。映画はサイコサスペンスのカラーが強くて、それに評者は強く衝撃を受けていた(冒頭からしてカタコンブでミイラを延々と...)のだけども、話は同じでも原作はずっと諷刺的な色合いが強いもの。要するに松本清張じゃない。 このカラーの違い、というのは原作発表の5年後に映画化された政治情勢にも因るもののようだ。映画は1976年作品で、この頃イタリア共産党は「歴史的妥協」政策(ユーロコミュニズム)によって、政権の座にあと一歩まで近づいていた時期。ロガスと共産党書記長の密会にもそういう政局炎上のリアリティで違いがあるようだ。この「歴史的妥協」路線はしかし、アメリカにもソ連にも意に染まないために、イタリア軍部やら右翼やら、さらには新左翼過激派などもそれぞれ陰謀を企み、テロが横行する結果をもたらしたわけだ。左翼のデモが過激化している様子は映画でもリアルに描かれているわけでね。 われわれは現実主義者でしてな、クーサン先生。革命が起きるような危険は冒せません。いまの時点ではいけません と共産党幹部が「革命に反対」してしまう本末転倒な状況が起きていた.... ポリティカル・スリラーってそういうもの。正義も解放もどこにもない、袋小路に落ち込んで絶望するのが、「ポリティカル・スリラーのムード」というものではないのかな。諷刺的な原作は映画と政治状況の進行によって、恐怖をテーマにしたスリラーに「化けて」しまったわけである。 (「赤い旅団」によるモーロ元首相誘拐事件やら、ボローニャ駅爆破テロ、フリーメイソンP2ロッジ事件やら、そういう背景だそうだ) |