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[ サスペンス ] 過去が追いかけてくる |
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キット・クレイグ | 出版月: 1994年04月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
扶桑社 1994年04月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2023/01/22 10:54 |
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いや~怖い。サイコサスペンスだから、恐怖要素は不可欠といえばそうだけども、ほぼホラーと言っていいくらいに「恐怖」が強烈。サスペンスとスリラーの違いって、男性的=行動的なスリラー、女性的=心理的なサスペンス、っていう程度の違いしかないようにも思うんだが、スリラーとサスペンスとホラーの3要素を高いレベルで実現した秀作だ。
3人の子の母が突然家から姿を消した...戸惑う子供たちはわずかな手がかりを元に母の行方を追いだすが、母は過去の因縁から、母の両親を放火殺人した「嘘つきの天才」のストーカーに誘拐されていたのだった... そういう話。子供たちが大人たちの援助を拒んで、十六の姉、十五の弟、四歳の末っ子の三人だけで追跡をするのには、潜水艦艦長だった父の公務での失踪をネタに使った「軍の秘密命令」を口実に使った罠が込められているという仕掛け。母の失踪が父の秘密任務に関係している、と子供たちの「願い」を悪用する悪辣な罠なんだけども、子供だから仕方ないなぁ....そんなわけで孤立無援の子供たちに感情移入して、子供だから至らないあたりにハラハラしつつ読み進めることになる。(作者の父も日本近海で潜水艦が沈没して亡くなったそうである...リアルは実体験) しかもこのストーカー、とくに女性に対しては「無敵」なくらいに、自分のいいように操ることができたりするセクシーさ。これを存分に利用して罠を仕掛けてくるわけだ。後半では邪魔な子供たちを始末しようと、ストーカーが子供たちに直接アプローチしてくるのだけども、十六の姉さえもその性的魅力にイカれそうになる。いやそんな「怖さ」。 読んでいて連想するのは「狩人の夜」。共通点は多いけども、子供たちが母を追跡するプロットが逆方向かな。あと母が画家でトラウマになっている場所を油絵で描いているのが、この作者の「ドロシアの虎」と共通する。 あ、言い忘れてた。キット・クレイグはSF系の作家キット・リードの別ペンネーム。評者はこの人の短編「オートマチックの虎」が大好きでこのところ追跡している。長編は「ドロシアの虎」が訳されているだけで残念。SFと言ってもいわゆる「異色作家」系の作家で、ややフェミ色もあるようだ。 いやSFの短編作家としては愛好者が多いようでもあるよ。何も知らずに評者も「オートマチックの虎」を読んで、ずっと覚えていたわけだしね。 |