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[ サスペンス ] ドロシアの虎 |
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キット・リード | 出版月: 1984年02月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
サンリオ 1984年02月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2023/01/14 14:53 |
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短編「オートマチックの虎」が評者にとって本当に懐かしい作品だったこともあって、キット・リードの作品を探したら、長編「ドロシアの虎」「過去が追いかけてくる(キット・クレイグ名義)」が入手できそうだ。一筋縄でいかない作家のようだが、「ドロシアの虎」は「サンリオSF文庫の懐の深さを象徴するような」とさえ言われるような、ジャンル迷子小説で有名な作品だそうだ。やるっきゃない。
主人公は地方議会の政治家の夫を持つ主婦ドロシア。サムという小学生の子供がいる。ある日新聞で幼馴染が腐乱死体として、子供たちに発見されたという記事を読む。同性愛がらみで殺されたのだそうだ。サムの同級生たちがその発見者であり、ドロシアはショックを受ける。落ち込むドロシアを夫はパーティに連れ出すが、そこにドロシアの母の元愛人で体を悪くして引きこもっていたラフキンが顔を見せた。ドロシアはこの2つの過去からの息吹に撃たれて、母マールに捨てられたトラウマと、幼時の忌まわしい記憶に促されるかのように、虎の絵を描き始める.... という話だから、SFらしさはなくて、広義のミステリ、といえばまあそう。徐々にラフキンを巡る暴力事件の謎が浮上してくるのだけども、何があったかは直接には解明されない(推測はできるけども...)。それよりもトラウマをかかえた女性たちが、トラウマに目を背けつつもサバイバルし、男たちも「田舎町」の現実に絡めとられて夢破れる「日常の地獄」の相が、平穏な日常の裂け目から覗き込まれるようなあたりが読みどころ。 一見優雅な白鳥も水の下では一生懸命水を掻いている、とは言うけども、平穏無事な「日常」の背後には恥ずべき過去が集積していて、それがちょっとしたきっかけで噴出しかねない危うさが、ある。そういう「汎ミステリ」な話、と読むのが本サイトではいいじゃないのかな。 |