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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] ピラミッドの秘密 贋作アルセーヌ・ルパン |
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南洋一郎 | 出版月: 1961年10月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
ポプラ社 1961年10月 |
ポプラ社 1976年11月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2022/12/06 15:45 |
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(ネタバレなし)
怪盗紳士アルセーヌ・ルパンは12~13年前の冬、ブローンニュの森の中で、孤児らしい幼女エリザを保護。ルパンは自分のもうひとりの母ともいえる乳母ビクトワールのもとにエリザを預け、その成長を見守ってきた。だが数年前の犯罪組織の危機のなかでエリザと別れたルパンは、久々にハイティーンの美しい娘となった彼女と再会。別離中のエリザは詐欺師ニコラ夫婦の周辺で生活していたが、エリザ当人の気性は以前同様、健やかなままだった。エリザをまた保護したルパンは、同時にニコラ夫婦から黒い皮袋を奪うが、そこには驚くべき秘密が隠されていた。 世代人や多くのミステリファンには周知のとおり、昭和の少年少女を熱狂させたポプラ社の児童読み物「怪盗ルパン全集」は、ルブランの原作ルパンシリーズを下敷きに南洋一郎がジュブナイル作品に書き改めたものが主流(中にはルブランの非ルパンものや、ボアロー&ナルスジャックの贋作ルパンも下敷きになっている)。 その中の一編である本作『ピラミッドの秘密』が、部分的にルブランのルパンもの短編の要素を取り入れながら、実はほぼ全体が南洋一郎自身による創作譚だということも、現在では有名である。 (評者はいつごろ、その事実を知ったんだろ? 旧世紀の終わりあたりか?) その書誌的な事実を知った時はかなり驚いたが、一方で少年時代に読んだ『ピラミッド』が、はてどんな話だったか? というと、あまり詳しく思い出せない。 他の巻同様に面白かった(特に不満もなかった)ことだけは覚えていたが。 というわけでいつかそのうち、あくまで南洋一郎のパスティーシュルパンという視点で読み返してみたいと思っていた本作だが、近所の図書館から借りてようやくこのたび読み返す。 いや序盤の、屋敷の中での人間消失? のくだり(ここがルブランの原作がベース)以外、まったく忘れていた。 ちなみに読んだのは、最寄りの図書館にあったハードカバーの旧「怪盗ルパン全集」版。昭和63年で70刷目という超ロングセラーである。 (なおネットで読後に知った情報だが『ピラミッド』は内容に三つのバージョンがあり、序盤部分がないもの、終盤の一部がないものもあるらしい。それによると、今回、自分が読んだ旧ルパン全集の後期増刷分は、いちばん情報量が多いバージョンのはずだ。) 物語は、ゲストヒロインの美少女エリザの出自の謎、ルパンが入手した物品に秘められた秘密などをフックに、文字通り、ジェットコースター的な展開。早々と中盤から秘境冒険ものの様相を見せていく。 南洋一郎作品のオリジナル実作は、まだ『緑の無人島』しか読んでない評者だが、それでもおそらくは作者が自分のフィールド世界にルパンを放り込んで目いっぱい楽しんでいるのはよくわかる。 当初はルパンのライバル格として登場しながらも、<人殺しは嫌いな凶賊>として描かれていた犯罪者「アルザスの虎」ことアンドレーが一緒に窮地を潜り抜けるなか(中略)となる展開も、お約束ながらなかなか良い(後半、そのアンドレーがほとんど、ただそこにいるだけキャラクターになってしまうのは少し残念だが)。 秘境世界は、(たぶん)南洋一郎流にイマジネーション豊かに拡大していき、とても21世紀ではめったに出逢えないような流れ(いろいろな意味で)になるのは、実に新鮮。 白人文化賛美、未開の土着民を啓蒙してやるぜの上から目線的な部分もあるが、これはまあ、時代のなかでそういうものだったと了解(21世紀の現実のなかで改めてマジメに書かれたらナンではある描写だが)。 なお豹面の悪役「大神官」ガラハダのキャラクター設定は現在ではいささか問題で、この部分は「オリジナルを尊重」しない限り、21世紀の新刊としては素直に復刊できそうもない叙述だ。 ラスト、秘境から連れ帰った新たな仲間を脇に、パリの町の賑わいを楽しむルパンの図は、なかなか愉快で洒落ている。その辺は南洋一郎御大、とてもスタイリッシュ。 ご都合主義だの、偶然が過ぎるだのというのもあまり意味のない筋運びで、一方でところどころ、妙に印象的なシーンも登場し、いま改めて贋作ルパンの一本(で旧作ジュブナイル)として楽しむなら、その辺を得点的に評価したい。 瀬戸川猛資がルブランの原作よりも面白い、と公言した南洋一郎ルパン、そのひとつの形の凝縮である。 |