海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 青春ミステリ ]
豪球復活
河合莞爾 出版月: 2022年09月 平均: 6.50点 書評数: 2件

書評を見る | 採点するジャンル投票


講談社
2022年09月

No.2 5点 パメル 2025/07/05 19:20
プロ野球チーム・東京ティーレックスのエースである矢神大は、肩の故障から運動障害を引き起こし、ロサンゼルスで治療することになった。だがその治療施設から彼は失踪していた。東京ティーレックスのブルペンキャッチャーの沢本拓は、ハワイの地で八神を見つけ出し、帰国することになるが矢神は記憶を失っており、ボールの投げ方も忘れていた。
一人の野球選手の喪失と復活の物語であると同時に、その秘密を巡る物語である。高校時代に彼と甲子園で対決して以来、矢神の才能に魅了されその復活に尽力する沢本。主役となる二人のキャラクターはもちろん、過去の事件を追い続ける刑事など脇役も含め、手堅い人物描写で読ませる。
矢神と沢本で再起を目指す過程の物語だけでも十分魅力を備えているが、そこに殺人事件を巡る秘密が絡んできて、記憶喪失、自己再生、罪の意識といったテーマが重なり合い、深みを生み出している。
ただ個人的には超自然的な設定と、現実的な野球描写のギャップを感じたし、野球の技術解説や登場人物の心理描写が何度も繰り返され、テンポが鈍るところが気になった。

No.1 8点 人並由真 2022/10/25 16:35
(ネタバレなし)
 驚異の天才投手と評価されながら、左腕を故障していつのまにか失踪した、プロ球団「東京ティーレックス」の矢神大(27歳)。同チームのブルペンキャッチャーの沢本拓(27歳)は出先のハワイで偶然に、記憶を失っていた矢神を発見し、日本に連れ帰る。過去の自分を失い性格も別人のように変貌していた矢神は、なぜか左腕の故障も完治し、以前にも勝る豪速球を投げられるようになっていた。そんな矢神の球界復帰を親身に支援する沢本。だが矢神たちの前にはいくつもの難事が立ちふさがり、そんななか、矢神は記憶を失う前の自分が残していたと思しい、あるノートを見つけた。そこに書いてある、過去の殺人の事実らしき記述。そしてそんな矢神と沢本の前に、ひとりの男が接近してくる。

 厚い! 一晩で読めるかと思ったが? 正に豪速球のような加速感に突き動かされ、数時間でいっきに読了。
 良い意味での昭和の作りこまれた大衆小説的なストーリーテリングの勢いを感じさせる長編で、その辺はシドニイ・シェルドンのA級作品あたりを思わせる(さらに、コレはホメ言葉として使うが『おそ松くん』(少年サンデー版)の後期中編路線とか、アニメ版『アタック№1』のクライマックスとかを随所で連想した)。
 通俗的な悪役も、胸を打つ感涙シーンも盛りだくさんの激熱の野球小説だが、同時にミステリとしてもいくつかの長所において、とてもよく練られた作品である。最高に面白かった!

 実のところ、あ、作者はここで泣かせに来てるな、と思う所も少なくないのだが(汗)、しかしそんなことを考えながらも、結局は、作中の登場人物たちの心の機微や熱誠に屈して目頭を熱くしてしまう。少なくとも評者にとってはそんな作品でもあった。
 そして重ねて言うが、そんな傍らでミステリ要素(特に広義のホワイダニット)の部分で、唸らされたポイントも相応にある。
(ちなみに過去の殺人事件の被害者とか事件までの経緯があまりにも類型的すぎるのは、個人的にはノーカンである。そういうところで減点する種類の作品ではないと思うし、終盤の沢本の視点で、ある種の相対化もなされているので。)

 現実のプロ野球なんてこれまでの人生で通算1時間も観たことのない評者(野球ものの漫画やアニメ、実写ドラマの、それぞれ出来のいいものなら大好き)だが、最後まで実に面白く読めた。
(読後にTwitterで感想を探ると『方舟』よりも良かった、と言ってる人もいるみたいで、それはそれで大きく頷ける。まあ作品の形質はだいぶ違うとは思うが、満足感はともに大きい内容というのは同感。)

 各誌の今年の国内ベストの上位3に入ることはないだろうけど、10位内には絶対に入ってほしいなあ。『燃える水』も『ジャンヌ』も良かったけれど、この数年の河合作品の安定・好調ぶりは嬉しい。9点に近いこの点数で。


キーワードから探す
河合莞爾
2022年09月
豪球復活
平均:6.50 / 書評数:2
2020年03月
カンブリア 邪眼の章
平均:7.00 / 書評数:1
2018年05月
燃える水
平均:7.00 / 書評数:1
2016年08月
800年後に会いにいく
平均:6.00 / 書評数:1
2015年06月
救済のゲーム
平均:6.00 / 書評数:1
2015年02月
粗忽長屋の殺人(ひとごろし)
平均:6.00 / 書評数:1
2014年10月
ダンデライオン
平均:6.50 / 書評数:2
2013年12月
デビル・イン・ヘブン
平均:5.00 / 書評数:1
2013年07月
ドラゴンフライ
平均:6.00 / 書評数:2
2012年09月
デッドマン
平均:5.60 / 書評数:5