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[ 時代・歴史ミステリ ]
ケニルワースの城
ウォルター・スコット 出版月: 1975年06月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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集英社
1975年06月

No.1 7点 クリスティ再読 2022/10/21 11:47
今年はエリザベス二世が亡くなったわけで、それにちなむわけでもないのだが、エリザベス女王(一世)の御代を舞台にしたクラシックはいかが。
ロマン主義の代表選手でデュマやらユーゴーの先輩にあたる作家...文学とエンタメの境界がまだはっきりしない時代。ミステリ的な筋立てではないけども、秘密にしなければならない人間関係の綾と、それを自身の出世に絡んで利用したり陰謀を企む奴がいたり、とミステリ的興趣が漂う作品である。

女王の寵臣レスター伯ダドリーは、秘密のうちに結婚した妻エミリーがいるのだが、女王が寄せる愛情と専制君主に対する恐怖、目の前にぶら下がる王配の地位への野心との間で引き裂かれ、エミリーを謀臣ヴァ―二―の手で軟禁せざるを得なくなった。エミリーに想いを寄せる騎士トレシリアンは、ヴァ―二―の手からエミリーを解放しようとするのだが、エミリーのレスター伯への愛は変わらない...レスター伯に直接訴えたいエミリーは脱出して、女王の御幸をレスターの居城ケニルワースに迎える祝典のさ中に、城に忍び込んだ...

という話。祝典の華麗はしっかり描くが、チャンバラなど活劇要素は少ない。エミリーにしてみれば、自身の愛を貫くと夫の野心の妨げ以上に、二股かけた夫の命も危ない。トレシリアンがいくら助けてくれてもトレシリアンは圏外で、それでもレスター伯一筋なのが厄介。これを利用するのが悪知恵の働く家臣ヴァーニー。自身の野心からも主君レスター伯をエリザベスの夫にせずにいられるものか、と策謀するわけだ。このヴァ―二―の悪辣さが状況を掻きまわし、善意のトレシリアンの優柔不断やら、レスター伯の板挟みを利用して状況が錯綜していく....ここらへんの三竦み的な状況の面白味がミステリ的と言っていい。でも「真犯人」のヴァ―二―、レスター伯への忠誠だけは一貫していて、イアゴー風の極悪人でもないキャラの面白さがある。

まあとはいえ「ロマン主義」らしく華麗な祝典の描写は詩的に念入りで、展開だけを追うのだとまどろっこしい。さらにヴァ―二―の手先になる悪党のラムボンが、フォルスタッフみたいな悪党なりのコメディ・リリーフの役割を果たすなど、シェイクスピアに似た味わいがある。作中でも同時代人としてのシェイクスピアへの言及も多いし、またウォルター・ローリー卿が自分のマントを水たまりに敷いて、女王の足を汚さずに渡らせたエピソードも作中で再現。

いやいや、クラシックながらしっかりエンタメしてる。


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ウォルター・スコット
1975年06月
ケニルワースの城
平均:7.00 / 書評数:1