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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 大統領候補暗殺 スーパースペード#1 |
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B・B・ジョンスン | 出版月: 1971年08月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1971年08月 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2022/10/04 11:39 |
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(ネタバレなし)
「おれ」ことリチャード・スペードは、かつて「スーパー・スペード」とか「ビッグ・トレイン」などの異名で鳴らした強豪フットボール選手。現在は故郷のロスアンゼルスのカレッジでフットボールのコーチをする33歳の黒人だ。大学院を出た修士でもあるスペードはコーチの傍ら教壇に立って、人種差別ほかの社会問題にも独自の見識を披露している。そんな著名人のスペードに、42歳の白人で人種を問わず支持を得る上院議員ウェイン・グリフィンの陣営から、ボディガードを務めてほしいとの依頼がきた。グリフィンは黒人街での票田を期待しているが、そんな彼のもとには集団で護衛役を雇ってほしいという黒人の組織からの押し売りめいた話などもあるという。考えた末にこの依頼を引き受けるスペードだが。 1970年のアメリカ作品。 60年代辺りからのブラックパワーブームで、70年前後の本邦の翻訳ミステリ界にも黒人主人公ものが多くなったなか、早川ポケミスからその流れを見込んで刊行された作品。 表紙周りにはシリーズものであることを堂々と謳い、ポケミスの解説(「S」氏が他の作品のネタバレ上等な原稿を提供・怒)でも続刊予定を告知していたが、結局、日本にはこれ一冊しか訳出されなかった。 (ちなみに少年時代の評者が、この書名と主人公の名を見てサム・スペードと何か関係あるのかな、と0.1ミリ秒くらい考えたことはナイショだ。) で、まあ、この時代のペーパーバックヒーローものなのは当然として、そんな時流にブームに乗り損ねた作品(少なくとも日本では)どんなかな、と何十年も心の片隅で思っていたが、今年になってわざわざ古書を、安く購入。気が向いて昨夜から読んでみる。 主人公スペードの設定は大枠ではあらすじに書いたとおりだが、さらに12年前に当時17歳の双子の妹を同時に事故で失っているとか、近所に住む老境の父と今も親しく付き合っているとか、その辺はまあそれっぽい人間味の文芸。 しかし女性=セックス関係についてはポルノ解禁時代にあってとんでもない破天荒ぶり。某航空会社のスチュワーデスたちが4人(人種はバラバラの美女ばかり)で同じ住居に暮らしているがその全員を互いに公認のセックスフレンドとして、ハーレム状態にしている。さらに作中での情交描写はそれだけにとどまらない。20ページに一回はエロシーン(あけすけ過ぎて、読んでてもあまり楽しくない)が登場してくる。 もともとフットボール選手時代に顔に重傷を負い、整形外科手術で修復したら黒人版ケーリー・グラントみたいな美青年になったそうで……。あーこりゃ、日本のマジメなミステリファンにウケるわけないね(笑)。スーパー主人公キャラクターの造形にしても、これはなんか違う。 解説で「S」氏は、黒人版ニック・カーター(もちろんキルマスターの方)とか書いてるけど、まあそうなんでしょうな。評者はまだソッチの方のニック・カーターは、一冊も読んでないけれど。 で、この題名とポケミスの裏表紙のあらすじで、どういう事態が起きるかはミエミエなんだけど、そこに行くのはストーリーの流れがかなり進んでからで、これはなあ、ええんか……という感じ。 (やっぱこの時期の早川はいろいろとダメだ。) 行動派の政治家の選挙活動に際して、数百人単位でボディガードを雇ってほしいと押し売りめいた売り込みをかける集団があり、その対応に政治家の側近たちが右往左往するとかのリアリティはちょっと面白かった。 「意外な犯人」(ふつうの意味でのフーダニットでは決してないが)といったミステリ的な興味も、少しだけあったな。 この手のモノはスキだけど、本作に関しては悪い意味でいかにもなペーパーバック・ヒーロー作品であった。 評点は6点も……あげにくいな。 まあ実質5.5点くらい(前述のような細部でちょっとは面白いとこはあった)の5点ということで。 最後に。本書の翻訳は仁賀克雄。お小遣い稼ぎで受けたお仕事だと思うが、日本語の訳文そのものにはあまり不満はない。良い意味で軽妙で、達者な感じ。 しかしたしかこの人、この数年後に、ミステリマガジンだったか旧・奇想天外だったかのエッセイで「屠殺人」「殺人機械」だったか、この手の時流に乗ったペーパーバックシリーズキャラクターの悪口書いてたよな。ご自分も同じようなシリーズ作品の翻訳のお仕事に関わって、それがうまくいかなかったからといって(?)他の後続シリーズをdisるのは、あんまり美しくない。 |