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[ クライム/倒叙 ]
子供たちの時間
レアド・ケイニーグ&ピーター・L・ディクスン 出版月: 1978年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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角川書店
1978年02月

No.1 6点 人並由真 2022/09/28 07:28
(ネタバレなし)
 カリフォルニアのマリブ海岸。そこには、テレビ&映画プロデューサーのマーティー・モスとその妻で美人女優ポーラが所有する、一軒のビーチハウスがあった。屋敷内には、それぞれ再婚であるモス夫妻の連れ子同士、9歳から4歳まで計5人の男子女子が弟妹として集っており、彼らはいつもみんなテレビに夢中だ。そしてモス夫妻が仕事のためにローマに旅行中、子供たちの世話はメキシコ人の娘「アボガド」こと、女中のグラジーラ・モントーヤに任されていたが、彼女は子供たちのテレビ視聴の時間制限と消灯に厳格で、融通がきかない女性だった。勝手気ままにいくらでもテレビを観たい子供たちは、恋人を自室に引っ張り込んだのち酒を飲んで酔いつぶれているアボカドを、大型のマットに乗せて外洋に流すが……。

 1970年の英国作品。
 突発的かつ衝動的な殺人ドラマを描いた倒叙サスペンススリラーだが、邦訳された当時、日本のミステリファンの一部では、主人公の殺人者たちが10歳にも満たない男女の子供、そしてその殺人の動機が「好きなだけテレビを観たいから」というぶっとんだ文芸であることからちょっと話題になった。
(まあ21世紀の今なら、尺度の違う意味でのさらにクレイジーな殺人の動機は、新本格のあれやこれやとかに散見するのであるが。)

 かねてから関心はあった作品だが、とにもかくにもコドモたちが人を殺す以上、ダークなノワール性は免れないな、という思いもあってやや敷居が高く、何十年も読まないで、その一方で気になって、それなりに側には置いておいた一冊(正確には以前に買った本が家の中で見つからず、21世紀になってからブックオフの100円棚で再購入した方が、つかず離れずの場にあった)。

 でまあ、今夜気が向いて、まあそろそろ読んでみるかと思ってページを開いたが、キモとなる子供たちによる女中殺しのくだりは、かなりあっけらかんとした叙述。ほとんど読者にストレスを与えず、軽妙なブラックユーモアみたいな感触で受け入れられる。
(この辺は被害者の女中アボカドが、仕事が終わった自由時間内の行動とはいえ、幼い子供たちがいる主人の家と同じ屋根の下に男をひっぱりこんでセックスしたり、酔いつぶれるまで酒を飲んだりと、いささかふしだらな娘として書かれていることも大きい。ヒッチコックが某自作のメイキングなどで言った「殺されても、受け手が心をさほど痛めないタイプの被害者の造形」というのはたしかにあるものだ。)

 とにもかくにも犯行が遂行されてからは、犯罪の発覚を警戒した子供たちの防衛・隠蔽ドラマになり、順当に女中の恋人が家に乗り込んでくるが、以降のサスペンスやスリルもそれなりに読ませる。
 まあ21世紀の新作ならゆるい、ユルい、出来ではあるが、半世紀前の作品で、さらにこういうかなり特殊な設定のオハナシなら、まあまあ合格点というところ。
(人によっては不満かもしれないネ。)

 主人公の5人兄弟は9歳の長女キャシーと4歳の次女マーティの間に長男(たぶん9歳だがキャシーより遅生まれ)のシーン、8歳の次男カリー、三男のパトリックが挟まれる構成。前述のように双方の親の連れ子同士での混成兄弟のようだが、妙に仲がよくチームワークも順当なのが微笑ましい。そしてその連携ぶりが効果を上げるのが殺人の事後処理というのが、本作の狙いどころのブラックユーモアだが。

 ラストがどのように着地するかは、もちろんここでは書かないが、いずれにしろ思っていた以上には、良い意味でフツーに楽しめた。
(まあそれでも、読者を選ぶタイプの作品かもしれないんだけれど。)

 余談ながら角川文庫版の51ページに出てきたSF番組の話題、『スタートレック』のあのエピソード(地球の禁酒法時代を模した文明の惑星に、カークやスポックが紛れ込む話)だね? 評者の好きな回なので、ちょっと嬉しかった(笑)。


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レアド・ケイニーグ&ピーター・L・ディクスン
1978年02月
子供たちの時間
平均:6.00 / 書評数:1