海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
海中の激闘
英国情報部員ジョニー・フェドラ
デズモンド・コーリイ 出版月: 1968年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1968年01月

No.1 6点 人並由真 2022/03/28 21:54
(ネタバレなし)
 1960年前後、恐怖政治の弾圧下にあるスペインの刑務所から、殺人狂の囚人モレノが脱獄する。モレノの脱走を手引きしたのはソ連情報部だが、モレノは一緒に逃げた囚人仲間のファン・ゲレロやソ連の現場スパイの老人アンドレスを早くも惨殺。ソ連情報部が危険極まりない野獣を世に解き放ってなお、モレノを必要とするのは彼の卓越したスキューバダイビングの技術にあった。その狙いは何か? 一方、英国情報部の「リキデイター(非合法現場工作員)」ジョニー・フェドラとその相棒格のセバスチャン・トラウトは、ジブラルタル海峡周辺のフェドラたちと親しい大富豪の令嬢アドリアーナ・トシーノの屋敷に滞在。洋上に浮かぶ、海洋研究船に擬装したソ連のスパイ一味の動きを探っていたが、やがてモレノの殺人衝動は、フェドラの周囲にも関わってくる。そしてさらに、逃亡したモレノの足跡を、スペイン警察側も追尾していた。

 1962年の英国作品。
 本国では1951年から71年にかけて16冊のシリーズが書かれ、かのアンソニー・バウチャーも007以上に激賞したという触れ込み……ながら、日本ではまったくウケず、邦訳がわずか2冊しか出なかったジョニー・フェドラものの第12作目。
 
 21世紀現在の日本では完全に忘れられた作家(一応、ノンシリーズを含めれば邦訳は3冊はある)だが、さてどんなものだろうと思って、書庫から何十年もツンドクだったポケミスの本書を引っ張り出して読んでみた。

 欧州在住のソ連情報部が、潜水技術に長けた殺人鬼モレノをわざわざ動員してまで、どっかの海中で何をさせたいのか? 当然、それは本作の大きな興味で、実際にその真相は物語のヤマ場になって初めて明確になるのだが、ポケミス裏表紙のあらすじでは堂々と、そのマクガフィンが何かを明記している。マトモにやる気ないだろ、当時のハヤカワの編集部(怒)。
 
 でまあ、まともに話に付合う限り、ソ連側の作戦の狙いは秘匿されたまま、英国側、ソ連側、さらにスペイン警察側の動きが三つ巴の様相を次第に呈してきて、その中で血に飢えたキチガイ、モレノが殺戮を働く。
 主人公フェドラの中盤以降の実働は、本部からの指示とかどーとかより、この殺人鬼への対応と広義の復讐の意味の方が大きい。なんだこのスパイ小説、けっこうオモシロイ。
 
 読んでるうちに、フェドラが英国とスペインのハーフで、父はレジスタンスの闘士だったことが判明。そーいえばフェドラがピアノの名手という設定は、どっかで読んでいたなと思い出す。
 フェドラの相棒トラウトは、ナポソロのイリヤを思わせるような陽性のキャラクターで、24歳の美貌の会社重役で父の巨額の遺産を受け継いだアドリアーナに岡惚れしているものの、アドリアーナの方はフェドラがスキらしいというまるでラノベの学園ものみたいな設定もちょっと楽しい。残念ながらアドリアーナ当人は、旅行中という設定で、本作の物語中には不在だが。そーゆー意味では、やっぱりもうちょっとシリーズを紹介してほしかった。
(ちなみに、トラウトの方も本作では大した活躍は結局していない。実際のところ、他の作品ではどーゆー関係性なんだろ、このコンビ?)

 ソ連側、スペイン警察側のキャラ立てにも英国流のドライユーモアの香りが感じられ、思ったよりは面白かった。もっとしっかりと商売的な戦略を考えて売られていれば、同時代のアメリカのマット・ヘルムもの程度には日本でもウケたんじゃないの? とも思う。
 評点は7点に近いこの点数で。

 しかしマジメに原書でこのシリーズの未訳作を追っかけた人とか、日本にいるのだろうか?


キーワードから探す
デズモンド・コーリイ
1968年01月
海中の激闘
平均:6.00 / 書評数:1