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[ SF/ファンタジー ]
騎士団長殺し
第1部 顕れるイデア編/第2部 遷ろうメタファー編
村上春樹 出版月: 2017年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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新潮社
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No.1 6点 人並由真 2022/01/18 05:26
(ネタバレなし)
 名士や実業家の肖像画を製作してそれなりの評価を受け、相応の収入を得ている36歳の画家「私」は、妻の柚(ユズ)から、別れてほしいときなり言い出された。ユズには、すでに肉体関係のある恋人がいるらしい。ユズに怒りも憎しみも覚えないまま、肖像画の仕事も辞めて自動車の旅に出た「私」だが、やがて東京に舞い戻ったのち、美大時代の友人・雨田政彦の計らいで、彼が所有する小田原の家の管理を引き受ける。そこはかつて、政彦の実父で今は老人ホームに暮らす日本画家の大家・雨田具彦の自宅でアトリエだった家屋だった。だがそこで「私」はある夜、不思議な出来事を体験する。

 創作の村上作品をしっかり読むのは、今回が初めて(『ロング・グッドバイ』と『高い窓』の新訳は読んでいるが)。
 しかしこれだけの現代文壇での有名作家の小説をいきなり最新作から読むのはさすがにどうかとも思った。そこで小心者の評者がwebでなんとなく他の人の動向を探ると「これ(『騎士団長~』)で初めて村上作品を読んだ」とか「本作はハルキワールドの入門編によろしい」などの声も結構? 目につく。
 それじゃあ……ということで、半年ほど前にブックオフでそれぞれ200円で購入した、状態のいい帯付きのハードカバーを読み始めた。

 1・2巻あわせて、ハードカバー一段組で本文1000ページ以上の大冊だけに、日の明るい内からページを開いてもさすがに一日では読めなかったが、それでも何とか二日で読了。
 適度に頭をマッサージしてくれるような一方、最後までリーダビリティを堅持したままサクサクとページをめくらせる文体のリズムは、揶揄や嫌味などでなく、さすがに巨匠作家、著作のほぼすべてが? ベストセラー作品になっている大作家という感じ。

 ストーリーに関しては、まったく予備知識なしに読み始め。実のところ、御当人はとにもかくにもチャンドラーの翻訳者であるし、さらに過去にもミステリのサタイアっぽい作品もあるらしい? とか読んだこともあるので(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のことか?)、今回もまさかこの題名から、中世風の異世界で生じた殺人ミステリが、次第に村上ブンガクの方向に流れていく内容かとも勝手に予見していた。まあこれは半分~3分の2くらい冗談、残りがホンキ。実際は、もちろん、全然、違ったのであるが(笑)。

 すでに読んだ人も多いかもしれないがあえて最低限、なるべくネタバレにならないように書くと、題名の「騎士団長殺し」とは作中に登場するキーアイテムとなる(中略)のことで、物語の足場は基本は一人称の主人公「私」が踏みしだく現実の世界。そこから(中略)へと、次第にストーリーのステージが広がっていく。
 こういう文学作品だから、読者の自在な勝手な解釈を受け入れてくれる余地も十分にあるようだが、ごく素直に読めば現実世界の壁が次第に割れて、向こう側の空間(あるいは主人公を含む劇中人物たちのインナースペース)を覗き込む幻想小説・観念小説という形質を認める。
 その上でそれぞれの役割を担っているはずの登場人物や、個々の意味性をはらんだ事象の配置が鮮烈で、なるほど村上作品の完全ビギナーとしてはそれなりの満腹感を抱いた。
 とはいえ(一部のネットで同じ感想を述べている人もいるが)キーパーソンのひとりの某キャラと先述のキーアイテム「騎士団長殺し」の関係性&距離感など「これは、ここで終わらせて、あとは解釈を読者にゆだねるのか? それとも……?」と言いたくなるような、評者のようなシロートには見切れない部分もなくもない。まあその辺も屁理屈をつければ、モノのひとつふたつくらいは言えそうだけど、なかなか怖くて書けないよね(笑・汗)。

 で、クロージングはあまりに綺麗にしみじみと終わりすぎていて、なんかそこに、送り手がいろいろと読み手(ここでは評者のコト)を振り回しておいて、最後はお上品にリリカルにこれかい、なんかズッコい感じがするよ、というのも正直なところであった。
 ただまあ、(これもすでにネットのあちこちで言われているようだが)本作の世界観はさらなる続編に繋がっていく伸びしろを残した構成のようになっている気配がある。まあ、この世界観や小説的なメソッドをまた使い、何年かあるいはもっと先に新作が書かれたとしても、主人公はたぶん変わるだろうけどね。
 とりあえず、一回読み終えた自分をホメよう。

 ちなみに本サイトで感想・印象のレビューばっか書いてる評者に耳の痛かった一言を、本作の本文から引用。

「しかし絵画的印象と客観的事実とは別のものです。印象は何も証明しません。風に運ばれる薄い蝶々のようなもので、そこには実用性はほとんどありません。」
(第二部・ハードカバー版44ページ)

 うーん。


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