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[ ハードボイルド ] 殺しのフーガ ジャック・カーター/改題『ゲット・カーター』 |
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テッド・ルュイス | 出版月: 2007年12月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
扶桑社 2007年12月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2022/11/26 16:34 |
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(ネタバレなし)
「俺」こと38歳のジャック・カーターは、ロンドン暗黒街の大物レズ&ジェラルド、フレッチャー兄弟のもとで働く荒事師。だが今はひそかにジェラルドの新妻オードリーを寝取り、そして新たなボスのもとに鞍替えしようと画策していた。そんななか、故郷の町で不仲だった兄フランクが、崖から車で転落死したという知らせが入る。ジャックは、フランクの死に何者かの陰謀を感じ、そしてフランクの遺した16歳の娘(もしかしたらジャックがフランクの妻ミューリアルと不倫して生ませた子供かもしれない)ドリーンの周辺に何かトラブルの影を認め、町での調査を開始する。だが土地の悪事の根は予期せぬ形で表れ、さらにロンドンのボスたちはジャックの動きに牽制をかけてきた。 1970年の英国作品。 当時の英国のマフィア的なシンジケートに属するプロ犯罪者の主人公ジャック・カーターを主役にしたクライムノワール系ハードボイルド連作シリーズの第一弾。 (とはいえたぶん作者は、この時点ではシリーズものにする気はなかったことは、本作を通読すると物語の中身から窺える。ちなみに第二弾以降はまだ未訳だ。) 現状のAmazonには書誌データの登録がないが、最初の翻訳『殺しのフーガ』は1973年に角川文庫から刊行。翻訳者は少し前に『ゴッドファーザー』の邦訳で稼いだ一ノ瀬直二。 本作の映画化作品(邦題『狙撃者』)の公開に合わせて刊行されたが、原作の邦題は『殺しのフーガ』と洒落たものがつけられている。評者は実際にこの作品を読むまで、その『殺しのフーガ』の邦題の映画が存在し、それに合わせて原作の日本語タイトルも決まったのだと思っていた。 近年、リメイク映画が公開され、そっちに合わせて原作の新訳も出たようだが、評者はそっちの現物は新刊でも古書でも見たこともない。 今回、評者は旧訳の角川文庫版で読了。 (少年時代の昔から、そのカッコイイ響きの邦題と、アンニュイそうに銃を持つ主人公らしき男のスチール写真が、気にはなっていたのだった。) 冷酷な荒事師の主人公ジャックはヤリチン男で、過去の非行少年時代の回想もふくめて頻繁にエロでワイセツな叙述はあるが、思った以上にリアルタイムの濡れ場は少ない。一方でメインヒロインの一角といえる16歳の少女ドリーンはすでに処女も喪失しており、その辺も含めてセンジュアリティよりは、エロティシズムの過激さを成分とするノワール。 実際にやがて露わになる事件の真相もたぶん原書の刊行時としては、かなりショッキングなハズだ。 とはいえジャックは冷酷で殺人も辞さない荒事師な一方、なさぬ仲だった兄フランクや自分の実の娘かもしれないドリーンとの肉親の絆は重視するし、自分の作戦に巻き込んでしまって被害が生じた場合など、相応に相手に負い目を感じたりもする。 その辺のキャラクター描写(というか性格設定)のバランス感に独特の味があり、なるほど読者から本書が好反応を得たというならシリーズ化もありうるだろうな、とは思う。 田舎町の情景描写や、思いがあちこちに飛ぶ心象の叙述を地の文で長々と書き込みながら、一方で主要キャラ同士の会話が始まると今度はジャックの内面描写は抑え気味にしながら、ダイアローグだけで物語が進行したりする。 つまり、かなりメリハリの効いた作りこみの小説で、巻末の訳者あとがきや表紙周りの文言では「ありふれた犯罪小説の域を超えさせた」とか「単なるスリラーでなく、文学作品」といった修辞が目につくが、なんとなく言いたいことはわかる。 基本はドライで苦いノワール・ハードボイルド。 そして、そこかしこに滲む妙な情感と、そこに身を預けようとしかけると、読み手をぞっとさせるバイオレンス&過激な描写との振幅で最後まで緊張感を維持させる秀作。 個人的にはここできれいに? 終わった方が良かった気もするが、ジャック主人公のシリーズが続いちゃったんなら、それはそれで。 ということでどっかから、続きの邦訳を出してくれ。 |