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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ] アリゲーター |
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イ*ン・フ*ミ*グ | 出版月: 1965年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1965年01月 |
早川書房 1972年01月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2022/02/02 20:30 |
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007のパスティーシュというかパロディというか、何とも曰く言い難い作品である。ハーヴァードの学生雑誌に載ったものらしいが、ハヤカワの世界ミステリ全集に本家の「サンダーボール作戦」それに「ナヴァロンの要塞」と並んで収録されたことで有名、といえば有名かも。
いやね、笑いが目的のパロディか、贋作・模作を目的とするパスティーシュか、というのが区別が難しい、というのは、この「アリゲーター」の問題ではなくて、元ネタの007自体の問題だったりするのが奥深いところだ。巻末座談会でも訳者の井上一夫自身が 007のちょっとゲテがかった通ぶりを、逆に大げさにしてミソをつける 作品だと断言しているあたりからもそうなんだけども、考えてみりゃ「マティーニをステアせずにシェイクしろ」と注文を付けるの自体、かなり「ゲテ」な趣向といえばそれまでなんだ。しかしこの気取って逆を突く、わざと列を乱す奇矯さがないと「らしくない」。007らしい派手な粋さが出ないのだ。だから本家の007でさえも、「スパイのパロディ」ではまったくないのだが、パロディにかなり近い批評性をそれ自身に対して向けていて、それこそが「007の魅力」なのだ。 だからこそ「007のパロディ」は大変に難しい。そういうパロディの要素を007自身がどこかしら備えているからだ。パロディをしたとしても、それが目指す「批評」が、本家の自己批評性にまったく太刀打ちできないのだから。 「アリゲーター」自身も、パロディを目指したはずなのに、いつしか「パスティーシュ」臭くなる、と「負け」を認めているようなものだ。だからフレミングという作家は、 でも作風からすると、純文学的なものにも一見識をもっていて、その上で徹底したエンターテイメントを書いている、と想像されるんです。 と稲葉明雄に言わしめる(巻末座談会)曲者だ、というのを改めて認識させられる。 |