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[ 警察小説 ]
警官殺し
シュミット警視シリーズ
ジョージ・バグビイ 出版月: 1958年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1958年01月

No.1 5点 人並由真 2021/08/02 06:34
(ネタバレなし)
 その年の7月半ばのニューヨーク。所轄の青年警官ロバート(ボブ)・ブラックが、屋外で何者かに殺害された。NY警視庁(原文ママ)のシュミット警視と、その友人で捜査の記録役である「私」ことバグビイは、ブラックの上司であるアル・フィーリ警察署長と連携して捜査に当たる。やがて勤続6年目の平凡な巡査だったブラックについて少しずつ秘めた一面が見えてくる。一方でシュミット警視は、事件に関係がありそうな近所の不良少年スティーヴ・アンドルーズに関心を抱くが。

 1956年のアメリカ作品。
 大昔に中学生の頃、一度読んだ覚えがあるのだが、内容はまったく失念していた。
 それでもともと、バグビイのシュミット警視シリーズは日本版マンハントか日本語版EQMMで何作か中短編を読み、それなりに面白かった……ような記憶もあったのだが、改めてwebのデータベースで、日本に翻訳されたこの作者の中短編の総数を再確認してみると、実はそんなに多くない。はて、自分が読んでいてオモシロイと思った諸作の記憶は何らかの勘違いだったのか? 
(小鷹信光あたりがよく、未訳の原書から内容を紹介していたような気もするので、そっちで印象を刷り込まれていたのかもしれない。)

 なんにしろ、21世紀の今では、もはやほとんど誰も語らなくなった作家で作品。しかしあの旧クライム・クラブの一冊なので、なんかどっか引っかかるだろ、と思いながら何十年ぶりかで再読してみる。

 でまあ感想だが、う~ん、つまらなくはないものの、あまり面白くもない。ミステリのジャンルとしてはフーダニットの興味の強い警察小説で(容疑者の肖像を絞り込んでいくあたり、結構ロジカルであった)、小説のテーマとしては、時代に即した都会の下町の不良少年ものの主題も抱え込んでいる。
 能動的に動くシュミット警視のキャラも悪くないし、人の良い巡査ルビンなどの脇役も現場で奮闘、そこはかとない一般市民たちのビューマニズムとかも盛り込まれ、そういうもの「全部乗せ」の50年代警察小説。クロージングの(中略)なまとめ方も悪くない。

 だから本当なら、もっと楽しめるハズなのに、出来たものは残念ながら、一定の方向から食いつこうとするとほかの興味が目についてしまい、楽しみどころが定まらない……そんな感じなのである(涙)。
 出来が悪い、というよりは、中規模のネタが主張しすぎて全体のバランスがものの見事に揺らいでしまった、そういった印象の一冊だよ、これは。

 バグビイの著作はすでにこの時点でそれなりにあり、その中からコレをセレクトした植草甚一の狙いは、少年犯罪テーマの社会派っぽい現代の警察小説、さらにフーダニットの興味をプラス(動機というか、犯罪の背景もそれなりに意外だ)……そういう作りだから、これは日本の読者にもウケるんじゃないか、と思った? そんなところじゃないかと察する。
 が、残念ながらバグビイの看板作品シュミット警視シリーズの初紹介一冊目がこれというのは、ちょっとハズしていたよねえ。解説で紹介されているのを読んでも、もっと面白そうなのもあったような気はするんだよね。

 ちなみに役職未詳なまま、シュミット警視の側近として始終彼の脇にいる「私」こと、作者の分身のキャラクター「バグビイ」。何とも妙なメタっぽいキャラで、読了後にwebで、すでにこの作品を読んだ方のレビューを漁ると「警察小説版ヴァン・ダイン」とか称されており、言い得て妙で笑ってしまった。しかしそんな彼にも終盤でちょっと見せ場が用意されている分だけ、先輩ヴァン・ダインよりは扱いはいいかもしれない?
 まあ存在感のある「(小説作中の)ヴァン・ダイン」というのも、思い切り矛盾した事物という気もするけれど(笑)。

 評点はちょっとキビしいかもしれないが、まあこんなもので。

 ん-、万が一、21世紀の今、奇特なミステリマニアの研究・翻訳家が、日本では半世紀以上不遇なままのシュミット警視シリーズのリベンジとして、未訳の新刊を出してくれたら、たぶん、なるべく積極的に読ませてもらいます。


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ジョージ・バグビイ
1958年01月
警官殺し
平均:5.00 / 書評数:1