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[ ハードボイルド ]
ニュースが死んだ街
私立探偵ジョン・カディ
ジェレマイア・ヒーリイ 出版月: 1992年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1992年08月

No.1 7点 人並由真 2021/07/31 07:26
(ネタバレなし)
 1980年代の後半。「私」ことボストンの私立探偵ジョン・カディは、周辺の地方都市ナッシャバーの地方紙「ナッシャバー・ビーコン」の女流記者ジェーン・ラストから相談を受ける。ラストの希望は、地元ナッシャバーで違法な児童ポルノ産業が拡大し、その陰で賄賂と引き換えに悪徳警官のお目こぼしが行われている、さらにラストに情報をくれた男性も口封じされたらしいので、調査して欲しいというものだった。依頼を受けたカディだが、その夜の内にラストが自宅で薬物を飲んで自殺? する。状況に不審を覚えたカディは自らナッシャバーに乗り込み、ラストの抱えていた案件を一つずつ調査するが。

 1989年のアメリカ作品。私立探偵ジョン・カディ、シリーズの第5弾。
 WEBで再確認すると、カディシリーズは8冊まで翻訳。本国ではシリーズは13冊まで出たようで、全部が訳された訳ではないものの、それなりに日本でも支持があって、翻訳出版が続いた方だとは思う。

 とはいえ評者は本シリーズを読むのは今回が初めてで、かなり中途半端な食いつき方をした自覚もある。
 が、それはそれとして、被害者である女性記者ラストの足跡を追って、複数の方向に手がかりを求めてゆくカディの調査ぶりは、なかなか好テンポで面白かった。

 脇役も含めてキャラクターは全体的によく書けており、印象的な場面もそれなりにある。特に被害者である女性記者ラスト、その葬儀のシーンの切ない、やるせないインパクトなどは、かなり鮮烈。
 
 かたや軽く驚いたのは、主人公カディの生真面目な恋愛観で、現状でボストンの女性地方検事補ナンシー・マーアという恋人がいるが、彼女は彼女で地元で自分の抱える事件に忙しい。それでナッシャバーに赴いたカディは、死別した愛妻ベスによく似た女性記者リズ・レンダルからさりげなくモーションをかけられるが、はっきりとボストンに恋人がいると告げ、リズとは男女の仲として深入りすることを固辞。ヴェルダがいるのに、毎回の一見のゲストヒロインとほいほいいい仲になるマイク・ハマーあたりとは、良くも悪くも好対照だ。

 まあこれくらいならまだよいのだが、さらに「!」となったのは、その死別した愛妻ベスに対して何回も胸中で話しかけ、イマジナリイ・フレンドならぬイマジナリイ・ワイフと会話を交わすカディの描写。
 菊地秀行の工藤明彦(妖魔に殺された恋人をずっと心の中のパートナーにし続ける)みたいな主人公の描写で、ここまで繊細で、亡き妻にも今の恋人にも等しく操を立てようとするハードボイルド系の私立探偵キャラクターというのも、そうはいないであろう。いや、なんか色々と、ものの見方が変わった。

 肝心のミステリとしては残りの紙幅が少なくなってきてもなかなか真相に至らず、どうまとめるのかと思っていたら、かなりの意外なラストを持ってきた!
 いや、伏線抜きにクライマックス直前に伏せていた情報を開示し、そのまま事件の真実になだれ込む流れで、しかもいささか強引なので謎解きミステリとしてはあまり高い点はやれないが、それでも結構なサプライズなのは確か。
 事件を決着させたカディが某サブキャラを相手にしみじみ迎えるクロージングも、そこはかとない余韻を残して悪くはない。
(ただし個人的には、ある(中略)が登場した時点で、ハハーン、ラストは……と(中略)が読めてしまった部分もある。) 

 あと、実を言うと評者は本シリーズのことを、1作目、2作目のタイトル(邦題)が「山羊」だの「荒野」だの、何となくローカルカラーを連想させるものなので、田舎っぽいハードボイルドかと、かなりいい加減な気分でどことなく敬遠していたのだが、これは何というか、油と海の廃液の匂いが風に乗って香ってくる感じの都会派ハードボイルド(いわゆるスモールタウンもの=悪徳の町もの、というとちょっとニュアンスは違うが)。
 そっちの方向でかなり楽しめた。やはり作品って実作を読まないとわからないね。予断はよくない。
 前述のようにミステリとしてはもうひとつふたつツメてほしいところもあるけれど、ある種、作品の格のようなものを実感させたことも含めてなかなか楽しめた。
 またいつかこのシリーズは、面白そうなものを順不同で手にしてみよう。


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ジェレマイア・ヒーリイ
1996年06月
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