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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
太陽の凱歌
本郷義昭シリーズ
山中峯太郎 出版月: 1935年11月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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大日本雄辯會講談社
1935年11月

No.1 6点 人並由真 2021/06/12 05:39
(ネタバレなし)
 欧米列強の動きを睨みつつ、大アジア主義に邁進する昭和初期の日本。そんななか、帝都・東京に、O国人のジョージ・ミッケン率いる総勢120人以上の団員で構成される「世界大魔術団」が、興行のため推参した。だが魔術団の正体は、闇の世界に知られる間諜組織「世界大間諜団」を中核とする多国籍の混成スパイ団だった。一味の目的は、多方面の科学探求に長け、国防のために秘密兵器を続々と開発する民間の天才科学者・日野高明の研究を奪うことだった。だが一方、初老の年輩ながら心身ともに若々しい日野もまた、高度な科学技術を動員する国際スパイ団に関心を抱き、その内実を探ろうとする。帝都に展開される間諜と科学の攻防戦。その闘いに介入して、日野を守り、世界大間諜団の捕縛を狙う「神人」「魔人」こと、日本陸軍将校・本郷義昭の活躍は!?

 「少年倶楽部」昭和10年1~12月号に連載された、本郷義昭シリーズの第四長編(ここでは実質的な中編でデビュー編『我が日東の剣侠児』も一応、長編としてカウント)で、たぶんこれが最後の長編。
(ちなみにこの翌年の昭和11年に、あの遠藤平吉さんが同じ雑誌上でデビューだ。)

 誰もが名前くらいは知っているハズ? なのに意外に読まれていない(本サイトにもひとつもレビューがない!)本郷義昭シリーズだが、そういう評者も大昔に『大東の鉄人』を読んだきりであった。同作ももちろん戦前の旧作ながら、定石の展開をひねった後半とか、結構面白かった記憶がある。

 それで本作『太陽の凱歌』だが、たぶん本郷義昭シリーズでは一番入手がしにくい長編作品のはず。戦後にも一応の復刻はされているのだが、昭和37年の普通社の、雑誌みたいな叢書「名作リバイバル全集」版が最後の出版だと思う。ちなみにこの「名作リバイバル全集」はB5の判型に小さめの級数の活字をたっぷりと詰め込んでおり、総ページ数の少ないまるで週刊誌みたいな造本。「別冊幻影城」とかよりも早い、ムックのハシリだったね。今回、評者もこれで読んだ。

 そもそもこの作品『太陽の凱歌』は、石上三登志が70年代はじめのミステリマガジンに連載した、推理小説やら冒険小説やらSFやらウェスタンやらを独自の切り口で語りまくる評論エッセイ「男たちのための寓話」のなかで、ほんっと~うにオモシロそうに(しかしネタバレ込みで・苦笑)その魅力のほどを叫んでおり、評者などは原体験的に刷り込まれた作品のひとつだったのだ。
 とはいえ前述のとおり、本作『太陽の凱歌』は稀覯本なので、本郷義昭シリーズは先に出会った『大東の鉄人』の方をまず読了。それでまあ一応は『太陽の凱歌』をふくむ他のシリーズ作品も、読みたいと思う欲求が落ち着いてしまっていたわけであった。
 以降は十年単位でこのシリーズのことは半ば忘れていたのだが、21世紀になっても、辻真先センセあたりの著作そのほかで、本郷義昭の名前はときたま目につく。それで1~2年前に思いついてwebで『太陽の凱歌』の古書を探したところ、そこそこのプレミア価格で発見。安くはないけれど、大昔の思い出にカタをつけるつもりでまあいいか、と購入したのだった。
(だがまあ、通販でその古書を購入してから、さらにまた1年前後、ほうっておいたのは、いつもの評者の「釣った魚にエサもやらない」悪いクセだ~笑・汗~)。

 それで本作をようやっと読んでの感想だが、えー、こんな話だったの!? という思いがまず強い。本郷義昭は劇中に早くから登場するが、どっちかというと主役は本業は科学者のくせに妙に活劇したがる日野先生みたいだし、一方で本郷の方はう~ん……。
 なんかね、アダルトウルフガイで言うのなら『人狼戦線』みたいな、マイク・ハマーで言うなら『ガールハンター』&『蛇』みたいな、シリーズになじみきらないうちに読んじゃダメだよ(しかし作品世界と主人公になじみきった読者なら喜べるよ)的な、その種の変化球作品に接してしまった感じ(まあ、この辺はあまり詳しくは言わない方がいい)。
 いずれにしろ思ったのは、山中峯太郎、もうちょっと遅い時代にコレを書いていたら、もっともっと、作品の練度も完成度も上がったんじゃないかなあ、という感慨だった。ちなみにこの作品、同世代~やや若い当時の某・探偵作家に、とあるインスピレーションを授けた可能性も……あるかもな?

 でもって肝心の(?)かつて石上三登志が激賞した本作の長所というかポイントだが、正直、それを前もって意識しながら読むと完全に期待ハズレ。さきの「本来ならもうちょっと後の時代に書いてほしかった」部分とあわせて、残念ながら、肝心の狙いを活かす演出がまったく足りてないでしょう、という感じであった。
 石上三登志がウソを書いたり、話を盛ったとかは言わないけれど、かなり脳内で本作のポイントを実際以上に美化して語っていたように思える。

 重ねてあまり詳しくは語らないけれど、ひとつだけ言うなら、この『太陽の凱歌』は、ほかの本郷義昭シリーズをなるべく多く読んでから接した方がいいだろうね。先に言った、いろんな意味で変化球的な作品ということも踏まえて。
 まあ評者みたいなプロセスを経てこの作品に出会うヒトは、今後そう多く現れるとも思わないけれど。
 評点は、戦前の(中略)なスパイ冒険ものジュブナイルとしてこのくらいで。
(ちなみに記憶のなかにある『大東の鉄人』は、同じ尺度で7点ね。) 


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