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[ サスペンス ] 堰の水音 |
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メアリ・インゲイト | 出版月: 1979年10月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1979年10月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2021/06/10 11:12 |
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背が高くて薄くて、メタリックな背表紙のあの本って、ヴァン・ダインとかクイーンとかクリスティみたいな、推理小説のシリーズらしい....
と、晴れて中学生になった評者は勇んで図書館の大人向け書籍を借り出そうと本棚を眺めてました。地方都市だからポケミスって本屋で売ってないんです。ミステリ=文庫、という感覚の新中学生。あ、クリスティある。「終りなき夜に生れつく」か...知らないなあ。クリスティでもいろいろ知らないのがあるんだ。その隣は?「堰の水音」だって。借りてみようか?表紙も抽象画でグッとおしゃれ! 評者ポケミス初遭遇の一幕。クリスティでも「アクロイド」は読んでたからね。「終りなき」は「ポアロも出ないし、クリスティっぽくないんだ...」と頭??のまま。それでも最初から面白く読んで今に至る(苦笑)。 で「堰の水音」。「全然ミステリっぽくない....でも、これがオトナの小説、というものなのかしら?」と、実は評者にとって、とても懐かしい作品。ポケミス初遭遇のショックと共に記憶されているのでした。 なので再読を楽しみにしていた。第一回イギリス女流犯罪小説賞の受賞作。結婚した仲良しの従姉の家に滞在した主人公の少女は、年の離れた夫と娘らしい従姉とのバカンスを楽しんだ。翌年また従姉の家を訪れたのだが、夫婦関係に何か微妙な空気が漂っていた...従姉の秘密を目撃する主人公。バカンスを終えて寄宿学校に戻った少女は、裁判の証人として呼び出される。仲良しの従姉がその夫を殺害した容疑の裁判で、少女の証言は従姉の有罪を決定づけるものになった....数年後、学校を卒業した少女は、今かつての従姉の家に住む考古学者と知り合う。同年配の恋人に捨てられた腹いせに、主人公は考古学者のプロポーズを受け入れて、かつての従姉の家に住むことになった.... 時代背景は1920年代。なかなかレトロな趣味だが、クリスティだって評者が当時読んでた作品はそんな年代である。内容的にはウェストマコット作品をもう少しサスペンス寄りにしたくらいの、小説的興味の方が強い内容。自然描写も丁寧で、今読むとなかなか、いい。主人公が死刑になった従姉の生き方を本当になぞるかのように話が進行する、と仕掛けた作品。蒸発したかつての恋人に遭遇して、主人公自身が年の離れた夫に対して殺意を抱くとか、夫がかつての事件にかかわりがあるのでは?とか、心理的にはなかなか侮れない展開をする。 小粒だけど、そう悪くはない小説。けど本当にレトロな味を狙っていて、斬新さとかはない。渋すぎて、絶対に中学生向きではないな(苦笑)。古典パズラーしか読んでない中学生には、味わうどころか「こんなのもミステリ!」と初遭遇のショック。 ちなみにこの後、「水は静かに打ち寄せる」が訳されていて、これが本作の続編にあたる内容。こっちは読んでない。そのうち読もう。 |