海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ヴァチカンへの密使
デニス・ジョーンズ 出版月: 1993年12月 平均: 5.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


新潮社
1993年12月

No.1 5点 クリスティ再読 2021/06/06 19:02
1990年代に5冊ほど新潮文庫から出ていた著者である。内容は国際謀略スリラーが中心で、評者はあまり関心がないジャンルだ...いろいろ検索してみたが、どういう著者か今一つよくわからない。群小作家のようである。なんでこの本を今回取り上げているか、というと、実は評者が購入した本ではなくて、母が死の床になった入院にこの本を持っていき、病院からの遺品に含まれていた。母を偲んで取り上げる。
評者の母は70歳を越えても頻繁に地域図書館から本を借りてきて読んでいたくらいの読書好きだった。その影響を評者も受けているんだろうな...いや本当に乱読。母が借りてきた本を便乗して読んだことも、頻繁にあった。
本書の原題は奥付には「With Burning Sorrow」となっているが、検索してみるとWith がないのが正しい(か改題版がポピュラーか)ようだ。原題は「Mit Brennender Sorge」という1937年にヴァチカンの教皇ピウス11世の出した回勅を踏まえていて、「深い憂慮に満たされて」という意味。何を「憂慮」し批判しているかといえば、ナチスドイツがその人種理論によって、ユダヤ人をはじめとする非アーリア民族を抑圧することである。この回勅を巡るヴァチカン内部の対立と、さらに踏み込んだ回勅を出させようと運動するユダヤ人団体、さらには批判的な教皇を暗殺すべくナチスが送り込んだ親衛隊将校を巡る政治スリラーである。
この暗殺計画は手が込んでいて、その親衛隊将校をユダヤ人に変装させて、パレスチナ経由でヴァチカンに送り込んで、ユダヤ人を犯人にでっちあげようという謀略も含まれていた。ユダヤ難民のパレスチナ逃亡を援助するモサドの原型組織に属する主人公と、ユダヤ人弾圧の証拠を入手してヴァチカンへの運動の原動力となった女性ジャーナリストのヒロインとに、たまたまこの暗殺者との縁ができる。暗殺者に利用されて主人公らはパレスチナからローマへと行動を共にするが、ローマに到着したら主人公たちは暗殺計画を察知してそれを阻止する役回りになる。
まあこんな話。緊迫したスリラー、だと良いんだが、本題の教皇暗殺計画にちゃんと入るのが残り150ページくらいからで、それまではパレスチナでのユダヤ難民の話が続き、構成が散漫と言われても仕方のないところ。キャラは類型的。最後になってくると暗殺者の親衛隊将校がなかなか情けない小物っぽくなるあたり、量産型スリラーと言われても仕方がない。
でもね、本のほぼ真ん中のp251に、ページの角を折って栞がわりにしてあるのを見つけた。母はきっとここまで読んだんだろうな...落涙。


キーワードから探す
デニス・ジョーンズ
1993年12月
ヴァチカンへの密使
平均:5.00 / 書評数:1