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[ 本格/新本格 ]
第六の容疑者
南條範夫 出版月: 1960年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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文藝春秋新社
1960年01月

No.1 6点 人並由真 2021/06/04 11:09
(ネタバレなし)
 その年の初め。中堅企業、田無製作所の経理課長で34歳の高山啓三は、昔の情人・満子と再会する。現社長・純一郎の実弟で、美貌の妻・千恵子と生まれたばかりの娘・昌代とともに幸福な生活を送っていた啓三は、満子から実は自分の子供がいると脅迫されて、やむなくかなりの金を払うことになった。さらに田無製作所の周辺では啓三に直接、関わる者やそうでないものを含めて複数の悪事や秘め事がひそかに横行するが、そんな彼らを食い物に恐喝を働くのは興信所の悪徳調査員・工藤晋一だった。だがその工藤が何者かに殺害され、T新聞の記者・石岡晴行は事件の謎を追うが。


 元版は1960年に文藝春秋社から刊行。のちに1980年に徳間文庫に収録。これ以外に別版もあるかも知れない(徳間文庫版はAmazonに掲示されているが、なぜか現状では、本サイトにデータをリンク~表示できない)。

 今回はその徳間文庫版で読了。
 サスペンス色の強いフーダニットパズラーで、国内に複数の支社を持つ中堅企業を舞台にした群像劇の趣もある長編作品。

 紙幅は文庫版で約280ページとそんなに長くないが、名前のある登場人物だけで50人近くが登場。事件の渦中にある主要キャラクターは11~12人ほどだと思うが、血縁・親族関係があったり、男女の関係だったり錯綜しているので、できるなら人物名リストと相関図を作りながら読み進めることをお勧めする(個人的には、そうやって関係性を整理してゆくのがなかなか楽しかった)。
 ちなみに評者は『名探偵コナン』は、ほぼ全く読んでないしアニメも観ていないけれど、悪役で被害者の名前に笑う(漢字表記はちょっと違うが)。

 昭和色の濃い埃っぽさを感じる作品だが、一方で海外ミステリの諸作を愛読する作者らしく、どこか英国の風俗要素の強いノンシリーズもののパズラーみたいな雰囲気も見受けられる内容。前述のとおりに登場人物の頭数は多いが、その割に適度に書き分けはされており、そんなところも英国のカントリーハウスに多数の親類や知人一同が集うようなタイプのミステリみたいな味わいもなくもない。

 目次を見るとある程度、先行きの流れが覗けるような気もするが、同時にページ配分的に、その見出しをあらかじめ目にした読者が軽く違和感を抱くようなところもあり、これが作者の狙いだとしたらちょっとニクイ。
 終盤に語られる殺人者の名前はなかなか意外で、読み手のスキをつくようなサプライズの設け方も垢抜けた印象がある。丹念に張った伏線を回収してゆくようなタイプのものではなく、(中略)という道筋で真相に至るのはちょっと惜しいが。

 読後にwebなどを見ると、隠れた昭和パズラーの収穫みたいに語っているミステリファンもいるようで、そんなに大騒ぎするほどの優秀作品ということもないが、良い意味で佳作にはなっているとは思う。


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