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[ ハードボイルド ] 落ちる男 私立探偵ポール・ショウ |
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マーク・サドラー | 出版月: 1976年01月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1976年01月 |
No.2 | 5点 | クリスティ再読 | 2023/08/15 18:53 |
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論じにくい作品。ダン・フォーチュンの「恐怖の掟」なら、ハメット的なリアリズムで「今」なストリート感覚を出そうとしたという狙いがわかるんだが、ポール・ショウは狙いが判りにくいよ。風俗的背景に左派のヒッピーコミューンがあるから、フォーチュンよりもハイソな話。
三人でやっている探偵社の2番手、元俳優で成功した女優の妻あり。そりゃ「いそう」という面でリアルなんだけども、「その後のハードボイルド・ディック」という風なことを考えた時に、たとえば「影なき男」のチャールズ夫妻、あるいはリンダと結婚後のマーロウ、というあたりを、オマージュ的にならずに響かせているとみるのがいいのかなあ。一見ハードボイルドな探偵なんだけど、自らの夢と成功した妻との関係など、ちょっとした「危機」にある男の話だと評者は読んだんだ。 まあ舞台設定からしてひねってある。自分の事務所に空き巣していた男を突き飛ばしたら、窓から落ちて死んでしまう...でも、なぜそんな侵入事件を起こしたのだこの男! これがとっかかりの謎であり、自ら「殺してしまった」男の死の真相を明らかにしなければ、どうしても寝覚めの悪い話である。でテーマはやはりショウ自身が抱える「男の夢」といったものが、被害者にも、犯人にも、通底するといった話になってくる。 いやだからこそ、ショウ自身も自身が抱える果たせない夢が、妻との関係とのキーにもなっていて、そういう屈折をまあ、ハードボイルドなので声高に語らない矜持で描いているあたりがポイントなのかな。 けど地味な事件だし、あまり翻訳が読みやすくない。あれ?となるところが何箇所かあった。 まあでも、フォーチュン(マイクル・コリンズ)、ブエナビスタ(ジョン・クロウ)と並んで同一作者別主人公読み比べとかしてもいいのかもね。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2022/09/21 21:07 |
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片腕探偵ダン・フォーチュン・シリーズのマイクル・コリンズが別名義で発表した作品です。本作の探偵ポール・ショウものは6冊あり、そのうち3冊が翻訳されているようです。ショウは平均的なハードボイルドの私立探偵らしいキャラクターで、首を締められたり、縛り付けられたりといった危機に見舞われもしますが、結婚していて、しかも奥さんは成功した舞台女優(結婚当時は駆け出しだったのですが)だというのが珍しいところです。ただ、本作ではその設定がそれほど活かされているとは思えませんでした。仕事で奥さんの舞台を見に行けないとか、最後の部分でちょっと気まずい思いをするとか、まあなくてもかまわないような気がします。
ショウが事務室に忍び込んだ銃を持つ男を、窓から突き落とすところから始まる事件そのものは、特に「なぜ」の部分が謎めいていて、結末の意外性もかなりのものです。 |