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[ 時代・歴史ミステリ ]
ピエール・リヴィエールの犯罪
ミシェル・フーコー 出版月: 1986年10月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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河出書房新社
1986年10月

河出書房新社
1995年09月

No.1 6点 クリスティ再読 2021/05/03 14:10
フランス現代思想が一世を風靡したのはもうずいぶん前になってしまった。ここらの人々で一番「名探偵らしい」思想家を選ぶとしたら、評者は断然、ミシェル・フーコーだ。「狂気の歴史」やら「監獄の誕生」やらで、司法行政と精神医学が絡み合う歴史を読み直した歴史家だから、ミステリとも重なる領域がずいぶんあるには違いない。
本書はフーコーが主催したコレージュ・ド・フランスでのゼミナールの共同研究だ。七月王政期の1835年にノルマンディーの農村で起きた、母と妹・弟を鉈で殺害したピエール・リヴィエールの事件についての、訴訟資料と本人による手記、そしてこの事件をめぐるフーコーをはじめ7つの論評を1冊の本にしてある。だから、本当はこの本は「ミシェル・フーコー編」なのだけども、題材をゼミナールの主題として選択したフーコーが、全体の「編集的な作者」とも見えるから、とりあえず、フーコーの名前で登録はしておこう。
自白もあれば犯行の背景・動機を詳述した手記もあり、また直接の目撃証言もあって、犯人はピエール・リヴィエールであることに紛れはない。ではフーコーが何を「謎」と捉えたのだろうか。それはこの「親を含む家族殺し」が、「狂気」として草創期の精神医学の対象とされて、市民的な陪審裁判の結果「尊属殺人による死刑」が宣告されるのだが、国王による恩赦によって無期懲役に減刑されるプロセスを通じてあらわになる、この司法と医学が「狂気」を扱うその諸相である。
ピエールは人嫌いの変人であり、周囲からは半ば白痴として扱われてきたのだが、犯行後に独力で書いた手記は、詳細な記憶に基づく描写力豊かな記述が見受けられて、独学者とは思えないほどの内容があって、精神鑑定に当たった医師や司法官を驚かせている。逮捕直後は「わざと狂気を装っていた」ことを本人が認めるほどであり、「ピエールの狂気とは?」が本書の大きなテーマになる。
これを「詐病=演技」と捉えるには、事件までのピエールの変人ぶり、好人物の父をトラブルメイカーの母の意地悪から救うための殺人とするその動機、および仲の良かった弟も殺したことを「母殺しによって自分が罰を受けることで、父が悲しまないように、父に憎まれるため」と述べた不可解さなどから、直接に反証されることになる。ではピエールの「何」が「どの部分が」狂気なのだろうか? 正気だったり狂気だったりするのか、あるいは正気/狂気が混在しているのだろうか。そしてこの事件が、「尊属殺人」を「国王に弑逆」に比喩する国家理論と重なり、当時の大事件である国王暗殺未遂事件との関連で大きな社会的問題となっていく....
この様相をフーコー以下の7人の論者が、それぞれの立場から、論考していく。だから構成としてはほぼそのまま「毒入りチョコレート事件」風の推理合戦もののような本である。
いやこれ、ミステリ、でしょう?


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ミシェル・フーコー
1986年10月
ピエール・リヴィエールの犯罪
平均:6.00 / 書評数:1