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[ SF/ファンタジー ] 天上天下 赤江瀑アラベスク 1 創元推理文庫全三巻アンソロジー |
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赤江瀑 | 出版月: 2020年12月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 2020年12月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2021/04/13 08:33 |
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最近では赤江瀑の作品はもっぱら電子書籍しか手に入らない...となっていたのだが、今までご縁がなかった創元推理文庫から、全3巻のアンソロが出ることになった。この第1巻がエッセイ「海峡―この水の無明の眞秀ろば」、長編最終作の「星踊る綺羅の鳴く川」、赤江瀑の長編としてはまとまりのいい「上空の城」の豪華3本立てに、故郷下関と歌舞伎と桃源郷を語ったエッセイ、それに編者とのロングインタビューを収録。
編者の東雅夫が以前学研M文庫の「幻妖の匣」のタイトルでまとめた本が、「海峡」「上空の城」+短編で構成されていてお買い得本だった。その本が今手に入りづらいから、拡大強化版のような企画である。 赤江瀑というと、長編作家じゃないから、どうしても「企画」が必要だ。この本は一応「長編3作」合本になるのだけど、それぞれが130ページほどしかない。「上空の城」あたりは特に、赤江瀑の「長編作家」らしからぬところも出ていて、短編に親しんでいると名作短編の引き延ばしのような印象も受けてしまう。まあ、そういう弱点もある作家、というのは念頭に置いておいた方がいいようにも感じる。実際、長編らしさがあるのは未完で著者らしくなく駄作の新聞連載小説「巨門星」くらいだし。 「海峡」は傑作だ。けどそれでも、それぞれの章が「破片」として、AからHの8つの断片からなる、エッセイ仕立てで「フィクション」ではない。統一したストーリーはなく、海峡をキーワードにして、さらに著者の名作短編で扱われたそれぞれの奇想の核を敷衍するような幻想世界が8つ。それを貫いて、若くして発狂して「海峡を越えた向こう岸の住人」と化した親友への追憶が芯になっている。なので、この「海峡」を赤江瀑入門に読むのはまったく勧めない。短編名作に親しんだあとに、「海峡」を読むと、赤江瀑の発想の核にある幻想がさらに広がって味わえて、赤江瀑を立体的に楽しむことができる。 水中でしか咲かないその人造花が、人間の肉体の花に擬せられてすこしも不自然ではないどころか、じつに適切な比喩となり得てわれわれに人間の花についての或るあざやかな展望をもたらし、説得力をもつというこのことは、恐ろしいことがらなのではあるまいか。 「役者の花」といういい方は世阿弥以来、クリシェとなっているのだが、この「人間の(宿命の)花」という比喩で赤江瀑の登場人物の運命を形容すると、なかなかオモムキの深いものがあるようにも感じられるのだ。 で、最後の長編となった「星踊る綺羅の鳴く川」は、江戸歌舞伎の役者が体現する「歌舞伎の精霊」と、鶴屋南北の戯曲に憑りつかれて死んだ劇作家を慕う女優たちとの間での、幻想の対話劇みたいなもの。「赤江瀑の「平成」歌舞伎入門」という新書での歌舞伎エッセイが赤江瀑の遺作になるようで、晩年の歌舞伎をめぐる幻想を展開した「歌舞伎論」のような芝居仕立ての「小説」である。観念劇だから、歌舞伎など演劇に関心が薄いと、つまらないんじゃないかな。 トリの「上空の城」は内容的には赤江瀑らしい話で、「城のイメージ」に憑りつかれた女性と、彼女に恋した青年のラブロマンスである。まあだから、小説としては意図的に「ふつう」を「当社比」で目指したような印象もある。いやこれを短編、と読んだら、引き延ばされて、赤江瀑らしくない日常描写の混じった作品、になるんだろうけども、長編と読むとやや食い足りないようにも感じる。赤江瀑入門編には最適かもしれないが、赤江瀑を「短編だけ」の作家に捉えざるを得ない、そんな残念さも感じるのだ。 東京創元社のサイトには4月末刊行の「魔軍跳梁 赤江瀑アラベスク2」の内容が出てますね。「幻妖の匣」収録作+後期作品なので、ほぼ光文社3巻アンソロとはカブらない、といううれしい内容! 買いです。 それでも3巻あたり長編「ガラ」は収録しないかなあ.... |