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野性の花嫁
コーネル・ウールリッチ 出版月: 1961年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
1961年01月

早川書房
1997年05月

No.2 6点 クリスティ再読 2022/07/25 16:14
ウールリッチのトンデモで一種の有名作。たとえば「夜は千の目をもつ」が強いていえばゴシックホラーだったりするのと同様に、本作もホラーの一種で捉えるのがいいと思う。前半の抑えた二重人格モノと、後半の蛮人コナン風の冒険ホラーと、タイプの違うホラーが二つ入っている、という感覚。

ほんと救われない小説。後味が悪いのは通例だけど、ウールリッチでも屈指じゃないかしら。訳題の都合でもあるけども「黒衣の花嫁」とタイトルが似ている....「死者との結婚」もあるし、結婚がテーマな「聖アンセルム」もあり、ウールリッチって「結婚」に妙に取り憑かれた作家だった、と見るのもいいのかも。としてみれば本作も市民的な「結婚」がいつのまにか血まみれな「聖婚」に化けてしまう話、と思ったら実にホラー。ウールリッチの「結婚」って幸せ度がゼロ?

まあでもウールリッチ一流の美文は衰えてない。結構堪能できる。

一日々々が、二十四もの環からなる鎖で作られた手錠のように、二人を幽閉し続けた

見知らぬ街でなすこともなく過ごす新婚夫婦の描写....まあ、ウールリッチ、若い頃の結婚は速攻で破綻した人だしね。

No.1 6点 人並由真 2021/03/24 04:09
(ネタバレなし)
 第二次大戦から数年後のアメリカ。少年時代に両親と死別し、戦場で出世のチャンスを掴んだ若者ローレンス(ラリー)・キングスレー・ジョンズ。彼は、たまたま友人と出かけたバルチモアの村で美しい娘ミッティと出会い、互いに恋に落ちた。だがミッテイの父親らしき年配の男アラン・フレデリックスはなぜか二人の交際を歓迎せず、ジョンズに早めに去るように促した。ジョンズは夜陰に乗じてミッティを連れ出し、駆け落ちした二人は土地の内務大臣の認可を得て公認の夫婦となる。執拗に追跡するアランとその年若い仲間ハフ・コターを振り切り、サンフランシスコに向かう客船「サンタ・エミリア号」の乗客となるジョンズたちだが、船が途中で寄った南米の停泊地プエルト・サントで、ミッティが勝手に上陸。その土地の山奥には、とある深淵な秘密があった……。

 1950年のアメリカ作品。
 ウールリッチ、アイリッシュの著作の中では相当にキワモノの長編ということは何十年も前から見知っていたが、一方でこちらも長い間、作者のそれなりの数の長短編につきあい、ウールリッチ作品の裾野についての認識も、広がってきてはいる。だからまあ、こういうのもアリかと。
(まあ『幻の女』だの『黒衣の花嫁』『死者との結婚』あたりを最初のうちに読んで、その次にコレに出会ったら、ぶっとぶかもしれんが。)

 大ネタは結構知られてると思うが、それでもあえてここでは詳細の記述は控える。
 しかし1980~90年代あたりから日本で根付き始めたJホラー分野の系譜、そのなかでも土着伝承ホラーの要素にかなり似通ったティストを認めた評者の感慨くらいは、書かせていただきたい。
 なお作者ウールリッチの経歴(1903~68)をあらためてざっとWebなどで探ると、作家としてはひとかどの成功を収めたものの、老母とのホテル暮らしのなかでその母が病気になったのが40年代の後半。当人としては正にアンダーで閉塞的な心情のなかで、南米の秘境に舞台が広がっていくホラーファンタジーを執筆。そういう現実の状況の推移のなかでこんなダークロマンをものにした当人の内面を偲ぶと、なんとも切ない想いに駆られないでもない。
(いやまあ、そういう観測なんかも、結局はみんな、こっちの勝手な思い込みなのかもしれないのだが。)

 途中のサイドストーリーとして語られる、青年学者コターのエピソード。その決着は、ある意味では本筋以上にインプレッシブ! ウールリッチの(中略)ぶりがまざまざと発揮された思いだ。
 当時の当人はどういう顔でタイプライターを打ちながら、このシーンを書いてたんだろ……。

 全体の歯ごたえは、一番近いもので言うなら、劇画ブームのなかで危機感を抱きはじめた時期の手塚先生が描いた、読み切りの中編作品みたいな感じ。
 作家歴のなかでベスト作品を拾っていっても決して上位には出てこない……けれど、妙な感じで気に障り、心に引っかかる一編。クロージングなども、すごく余韻がある。

 とにもかくにも、思っていたよりずっと良かった。
 7点に近いという意味合いで、この評点。


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