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[ その他 ] 暗い道の終り |
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ドロシー・S・デイヴィス | 出版月: 1973年06月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1973年06月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2021/02/20 07:07 |
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(ネタバレなし)
1960年代半ば。マンハッタンの一角にある町の教会。教区に赴任して11年目の四十がらみの助任神父ジョゼフ・マクマハンは、知人の少年カーロスから、近所に重傷の男がいると知らされた。マクマハンが急行すると、刺された男性は最後にわずかな会話をマクマハンと交わし、しかし自分を刺した者の情報は何も告げずに絶命した。まもなくマクマハンは、殺された男が「ガスト(ガス)・マラー」と呼ばれ、この一年半ほど近所の会堂の門番として働いていたことを知る。マラーは短期の在住ながら土地の一部の人々と密な親交があり、さらに男女の関係になっている人妻さえいた。マクマハンは偶然の縁故を契機に、生前のマラーと周囲の人々について探索を始めるが。 1969年のアメリカ作品。 作者のもう一冊の邦訳『優しき殺人者』は少年時代に買った覚えがあるが、未読のまま家のなかで見つからない。従ってこの作者の作品で読むのは、1~2年前にWEBで安い古書を購入した本書が、最初になる。なお本書の邦訳の作者名は「ドロシイ・S・デイヴィス」標記。 作者デイヴィスに関しては、本サイトの『優しき殺人者』のレビューでminiさんが語ってられるとおりだが、本作『暗い道の終り』はその10作目の長編。たぶんおそらくノンシリーズ作品だと思う(マクマハン主役の作品がこのあと皆無だとは断言できないので、一応、そういう言い方をしておく)。 それで本作の主人公マクマハン神父は、いわゆる広義の探偵役ポジションだが、物語のなかではことさらマラーを刺殺した犯人を探そうという原動などはうかがえない。もちろん警察の方も独自に捜査を進めており、マクマハンに関しては社会的に信頼できる聖職者が邪魔にならない程度に動くかぎりはほうっておく、くらいの感覚である(ただし、青年刑事のフィンリー・ブローガンとマクマハンが妙な感じに意気投合する描写はある)。 つまりマクマハンの調査や探求はきわめてナチュラルに故人の周辺を覗き込む感じで、町の人々の方も、聖職者が亡くなった者のために一種の供養をしてくれているという風に受け取っているのか、この調査にきわめて穏やかに付き合う。 言ってしまえば、そういった渋い地味な叙述が語られ連ねていくだけの小説なのだが、これが妙に先を読みたくなるノリと味わいがあって悪くない。おおざっぱにわかりやすく(?)言うのなら、アメリカの都市感覚にアレンジされたシムノンのノンシリーズものか、グレアム・グリーンみたいだ。 被害者マラーとの関係性から始めて、数人のメインキャラが作中に登場。マクマハンの視線と関心は死んだマラーのみならず、いまも生きているそんな彼らにも向けられてゆき、おのおのの内面とも触れ合う。そしてそんな叙述の集積の果てに、マラーの死についての<意外な真相>が語られる。 かなり普通小説に近い造りではあるが、同時にこれなら十二分に広義のミステリともいえる作品。ある種の文芸ミステリという感じで、その意味で味わい深い。 本国アメリカではかなり評価されたらしく、刊行年のMWA長編賞候補にもなったが、最後は惜しくもフランシスの『罰金』と争って受賞を逸したという。 (そういう評価が日本にも聞こえてきたから、『優しき殺人者』以来、この作者の著作が久々に翻訳されたのであろう。) 翻訳ミステリジャンルの裾野の広さが許せるタイプのファンなら、たぶん楽しめるかもしれない作品、だとは思うが。 |