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[ ハードボイルド ] ダーティー・シティ 私立探偵ジョー・コップ |
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ドン・ペンドルトン | 出版月: 1988年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 1988年12月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2021/01/23 15:40 |
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(ネタバレなし)
「俺」ことジョー・コップは、かつてはロスアンジェルス警察に15年勤めた、現在は30代末の私立探偵。ある日、コップは、周囲に不審な男の影を感じる、警官が怪しい、と相談に来た若い美女を迎えた。コップは、改めてその夜のうちに詳しい事情を聞くと約束して娘を送り出すが、彼女は探偵事務所の前で何者かに轢死の形で殺される。娘の力になってやれなかったことを悔やむコップは、彼女が働いていたキャバレー「ニュー・フロンティア」に乗り込むが。 1987年のアメリカ作品。 マック・ボランの創造主ペンドルトンが新たに生み出した私立探偵ヒーローで、英語Wikipediaによると本国ではシリーズは8冊に及んだらしいが、日本ではデビュー編の本書しか翻訳されなかった。 内容は1950~60年代のアメリカ私立探偵小説に影響を受けた、あるいは確信的なオマージュを込めて書き上げた感触の行動派探偵捜査もの。 主人公コップは幼い頃に父と死別、母親が苦労して彼を育てようとしたがやがて酒に溺れたため、隣家の、娘はいるが息子がいない警察官ハンク・グリアに後見されて(つまりハンクが実質的な父親で、そのハンクの妻子もコップの家族同然になった)成長した身上。しかし、養父格のハンクは心やさしい、愛情あるがゆえに時にきびしいそんな善人だったが、やがて殉職。そのハンクが陰で(たぶん心の弱さゆえに)汚職を働いていたと発覚したことを契機に、警官の正義のありようを探ろうとして、コップ自らも警察官になった。……いや、ベタだけど、泣ける主人公のキャラ造形でいい。 コップの内面を饒舌な一人称であけすけに語りまくる文章は、とても「ハードボイルド」ではないのだが、事件が警官の悪行に迫るなかで、当然のごとく司法警察官についての人生観を語るし、長広舌の物言いは当世のアメリカ文化論にも及ぶ。 とはいえ得られた手がかりを足で調べまくっていく捜査方法と合わせて、これはこれでアメリカ私立探偵小説の伝統的スタイルの踏襲という感じでいい(前述の、都市や地方文化についての文明論を内面で一席ぶつあたりなど、まんまシェル・スコットみたいだ)。 銃弾は飛び交い、人死にも頻繁な活劇作品の要素もあるが、その分、さすがにテンポはよく飽きさせない。 フーダニット的な謎解きの興味はほとんどないが、人間関係の意外性のようなものならちょっとだけあり、そういう意味でのミステリとしてはまあまあ。 後半、舞台がハワイのホノルルに移行するが、そこで登場するコップの親友の日系の警官ビリー・イノウエの「くえない」キャラが、なかなかいい味を出している。 最後まで読むと、あまり広がらない事件の奥行きに物足りなさを感じる部分もないではないが、その分、細部がいろいろと面白い作品なので、数時間つきあったモトは十分にとれた満足感はある。 ラストのまとめ方も、このあとのコップの周辺を気にならせるクロージングで、シリーズ全部出せとは言わないにせよ、このままあと数冊は翻訳してほしかった気もする。 まあ30年前の日本の<ハードボイルドミステリ>の読者には、スカダーやらスペンサーやらターナーやらごひいきの連中がいっぱいいたんだろうから、こういう作品の需要はそんなになかったんだろうけれど、この狙って書いた80年代後半からのB級っぽさは、改めてけっこうイケたとは思う。 |