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[ 時代・歴史ミステリ ]
ヘリオガバルス
アントナン・アルトー 出版月: 1977年05月 平均: 10.00点 書評数: 1件

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白水社
1977年05月

白水社
1989年06月

白水社
1996年01月

河出書房新社
2016年08月

No.1 10点 クリスティ再読 2020/05/03 22:09
評者的キリ番だから、記念に奇書を。愛読の1冊のご紹介。この本くらい、神秘に肉薄した本もないものだ。
シュルレアリストの演劇人アントナン・アルトーが書いた「戴冠せるアナーキスト」、ローマ皇帝ヘリオガバルスの詩的評伝である。まあだから、当たり前に歴史を張り扇で講釈するようなシロモノではまったく、ない。

しかしながら、このように回転するイメージの中、ウェヌスの化身の血を引く魅惑的な二重の天性の中、そして精神の最も厳密な論理のイメージそのものである驚くべき性的矛盾の中に、両性具有的性格以上に歴然と現れているもの、それはアナーキーの観念である。

ヘリオガバルス、あるいはエラガバルスは3世紀初め、五賢帝からコンモドゥス後の内乱を制したセウェルス朝の皇帝なのだが、たとえばギボンによると、

ヘリオガバルスの異常な性欲はウェスタの処女を辱め、多くの妻を取り替えただけでは満足しなかった。女装することに愉悦を覚え、恋人たちを有力者にすることで帝国の尊厳を汚し続けた

と評される「ローマ史上最悪の皇帝」なんだが.....いや逆にね、評者もそうなんだけど、猟奇の徒の間ではねえ、最高のアイドルじゃない?最近こういう感覚の好きモノが増えたようで、pixiv百科事典あたりではもう「男の娘皇帝」の扱いで載ってるよ。

ヘリオガバルスが淫売婦の服装で、キリスト教会や、ローマの神々の神殿の入口で四十スーで身をひさぐとき、彼は悪徳の満足のみを追求しているのではなく、ローマの君主制を辱めているのだ。

まだまだあるよ、

・踊り子を親衛隊長に指名
・男根の巨大さにもとづいて大臣を選ぶ。
・御者を夫と呼んで妻の役割をするのを喜んだ
・元老院議員に「同性愛の経験、ある?」と聞いて、下腹部をなぜた

などなど、楽しいエピソードが満載で、こんな皇帝が存在したことが自体が信じられない。そういうアイドルを扱った本としても「奇書」なんだけども、作者アルトーも強烈に、イッてる人なので、このアナーキーの背後に、古代オリエントの神秘思想を透視する。

異教徒と我々の相違は、彼らの信仰の起源には、全的創造つまり神性と接触を保つために、人間として思考しないでおこうとする怖るべき努力が存在するところにある。

このような神々とその原理たちの劇場として世界はあり、とくにローマという大舞台での演劇、というかアルトーが構想した反=演劇的な「残酷演劇」のかたちで、「男性原理と女性原理の相克の劇」を推参ながらヘリオガバルスが自身の肉体の上で/として演じるわけだ。その「残酷演劇」、虚構を演じるのではなく、予定調和でもなく、生の残酷を示すものとしての「劇」が、観客(ローマ市民)の精神に爪痕を残すことになる...
だから当然ながら、この「劇」は4年しか続かない。ヘリオガバルスは「劇」が傷つけた兵士たちに追われて、便所で糞尿にまみれて殺される。その死自体が、きわめてメタ=演劇的だ。死を含めて「劇」であるこのヘリオガバルスの生涯に対するアルトーの結語は「彼は叛乱開始の状態で死ぬのである」。


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アントナン・アルトー
1977年05月
ヘリオガバルス
平均:10.00 / 書評数:1