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[ SF/ファンタジー ] 歌う船 歌う船シリーズ |
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アン・マキャフリー | 出版月: 1984年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 1984年01月 |
東京創元社 2024年07月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2020/02/24 14:40 |
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ミステリとSFを比較すると、描かれる事件内容についてはミステリが「その時代」を直接反映するものだけど、「時代の思潮」を反映するのはSFの方が強いようにも感じる。なんて思うのは、本作あたりがたとえばジェイムズの「女には向かない職業」のSFでの忠実な合わせ鏡の位置にいる作品のようにも思うのだ。両者とも女性作者による自立した女性主人公で女性読者に共感されるような...というあたりのハシリの作品になる。両方とも「フェミニストSF/ミステリ」というほどに絞られているものではなくて、「ジェンダー規範」に異議を唱えるほどでもないが、それでも女性読者に自立への憧れとリアルな感情移入をもたらすことでは、ほぼ完ぺきな出来。「闇の左手」だとずっと「フェミSF」になってくるわけで、逆にミステリはこういう挑発性は期待するもんじゃなかろう。
本作は「歌う船」を主人公として、ゆるく話のつながった連作短編集である。ヘルヴァは奇形の体に生れついたが、知性的素質は申し分ないことから「殻人(シェル・ピープル)」として選抜育成されることになった...「殻人」は身体的に成長することなく、チタニウムの円筒に格納されて栄養素の水に浸かったまま、通常の人間の数倍の寿命を享受しつつ、条件反射を駆使した「教育」によって、眠ることもなく疲労も少ない「サイボーグ」である。ヘルヴァは「中央諸世界」に不可欠な、星間を飛び回る優秀なサイボーグ船の「頭脳」としての活躍を約束されていた! このチタニウムの体と乙女の心を備えたヘルヴァ、XH-834号の愛と冒険を6つのエピソードで描いている。ヘルヴァは「頭脳」だが、実際に仕事をする乗員として「筋肉」と呼ばれる相棒が必要になる。ヘルヴァは最初の「筋肉」ジュナンを任務中の事故で喪う悲劇に遭遇するが、その後の「筋肉」も「ディラニスト」の女性だったり、ロクでもないのもいたり、多種多様でここらの出会いも面白い。事件もなかなかアクション豊富で、宇宙船を誘拐する麻薬組織一味をヘルヴァが直接退治するなんて事件もある。「歌う船」の異名をとるほど、ヘルヴァの特技は「歌」で、電気的な調整でオペラ全パートを一人で歌えたりする。まあ、全体にボブ・ディランとかシェイクスピアとかカルチャー寄りなのが、SF臭さを消してナイス。 で読みようによっては本作の「真犯人」についての、最後のエピソードもなかなか乙女なロマンスになっててねえ。というわけで、本作1969年作品なので、SFの新古典くらいに位置する人気作で、なかなかに乙女心を満たしてくれます。「SF嫌いにSFの面白さを教える名作」として有名で、そういわれるだけのことはあるから、たまにはいかが。まある意味「艦娘」の元祖みたいなものだけど、あっちはメカ好き男子の妄想だからねえ...比較しちゃいけないな。 |