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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
遠い他国でひょんと死ぬるや
宮内悠介 出版月: 2019年09月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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祥伝社
2019年09月

No.1 6点 小原庄助 2020/01/28 10:22
ユーモアが混じるからこそ、不条理の影が濃く浮かび上がる。フィリピンで戦死した大正生まれの詩人竹内浩三の詩から取られたタイトルの感触は、そのままこの小説の読後感に通じている。
物語の主人公は、浩三が戦場に携えたはずの幻のノートに魅了されている須藤宏。番組制作会社でベテランとして働いていたが、「浩三の見た戦争を見たい」との思いから職を辞し、フィリピンに渡る。
老いを意識しつつある彼を駆り立てるのは、軸となるべき「歴史」を見失って漂流する自身の空虚さだ。その姿はどこか、インターネットを通じ歴史修正主義に染まる中高年とも重なる。
そんな彼をフィリピンで待つのは、ブレーキが壊れたような怒涛の展開。突如とレジャーハンターの西洋人ペアに襲われ、山岳民イフガオの女性に助けられたかと思ったら、彼女の元恋人の実家を訪ねミンダナオ島へ。島の分離運動に関わったイスラム教一家には秘密があり、さらに超能力まで絡んできて・・・。
ユーモアあふれる物語のジェットコースターに、振り落とされそうになる読者もいるかもしれない。けれど、小説を読み通したなら、そのスピード感、その奔放な想像力がなければたどり着けない地点があることを知るだろう。
物語の最後に主人公は、そして読者は、かつての悲惨な戦争を眼前に見る。この小説でないとあり得ない仕方で、とても高精細に。一方で著者は、その虚構性に自覚的だ。その誠実さは、かつての戦争の加害責任と向き合おうとする作中の主人公の姿とも重なる。
小説は中途半端に幕を閉じる。「まだ時間はある」という言葉を残して。「過去が曲げられようとしている」現在において、その言葉に説得力を持たせるために、それまでの物語は必要だったのかもしれない。


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