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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 洞窟の女王 Sheシリーズ 別名義H・R・ハッガード |
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H・R・ハガード | 出版月: 1955年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
小山書店 1955年01月 |
東京創元社 1956年01月 |
東京創元社 1974年05月 |
No.2 | 8点 | クリスティ再読 | 2023/06/05 13:27 |
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「ソロモンの洞窟」がジュブナイルみたいな明朗快活路線だったのにがっかりはしたのだけども、本作の方に期待していたからね。うん、本作って前半は「ソロモン」と大差ないアフリカ冒険旅行譚なんだけども、「SHE(原題)」である「洞窟の女王」アッシャが登場してからは...いやいや評者ツボでした。
アッシャのキャラがイケない方は、楽しめない小説だと思う。2000年間失った男を待ち続ける不老不死の女王。もちろん権高い肉食系。ツンはもちろんだけど、たまにデレてこれがたまらないです。評者イゾルデやらブリュンヒルデといった魔女系ヴァーグナー・ヒロインにズッポリな人間なのでどストライク。 先祖代々受け継がれてきた伝承をもとに、養父のホリーと共にアフリカ奥地に旅立った「ライオン」と形容される美青年レオ。この一行は引き寄せられるかのように女王が統治する「死者の国」めいたアマハッガー族の国を訪れる...一行を人喰い人種でもあるアマハッガー族の手から救った、レオに恋するアマハッガー族の少女アステーンも登場。 でもさ、あっさり女王アッシャの魔力でレオに恋する少女も撃退、にもかかわらずレオはアッシャの魅惑の虜。「2000年越しのミラクル・ロマンス」だから問答無用な威力。これを読者に納得させるためにか、醜男の養父ホリーもアッシャの魅惑に終始圧倒されっぱなし。うまいフックになっていると思うよ。 まあだからこれが受け入れられない人は、全然ダメだろうね。アッシャは「惚れたら命取り、惚れられても命取り」、道徳なんぞ踏み躙って何も気にしない魔女。そんな「ロマンス」だから理屈じゃないんだよ。 お話だから、すんでのところでこの恋は成就せず、レオとホリーは命からがらヨーロッパに逃げ帰り、その手記を作者の元に残して、チベットに旅立った.... というわけで続編「女王の復活」で決着がつくらしい。やならきゃね。 |
No.1 | 6点 | tider-tiger | 2020/01/19 18:15 |
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~ホレース・ホリーは容姿は醜く性格も内向きで学問くらいしか取り柄のない学生だった。そんな彼にもたった一人だけ友人と呼べる学生がいた。ある夜、その友人がホリーの元を訪ねてくる。彼は自分の命がもう長くはないことをホリーに告げ、我が子を――おまえガキがいるのかよ!?――ホリーに託したいという。いささか怪訝な話ではあったが、ホリーはいくばくかの遺産とその子供の養育を引き受けた。子供はいつしか類稀なる美貌の青年へと育ち、『彼女』に会いに行くことを決意する。こうしてホリーと青年はアフリカの秘境へと旅立つのであった。~
1887年英国。ヘンリー・ライダー・ハガードによるファンタジー風味の冒険小説。原題は『She』作者お気に入りの作品だったようで、18年後に続編が書かれている。所有する1956年の版では作者名がハッガードとなっているが、登録はハガードとした。 秘境がまだまだ秘境であった時代の冒険小説というのは雰囲気がよい。資料が豊富にあるわけではないので作者自身も手探りの部分が多く、それだけに良くも悪くも作者のロマンが作品内に大量に溶け込んで、普通に書いているつもりなのかもしれないが、どうしてもファンタジーの衣をまとうことになってしまう。 同じ秘境冒険ものとして真っ先に思いつくのは前に書評したマイクル・クライトンの『失われた黄金都市』だが、こちらはさすがに100年近く後発だけにアフリカがアフリカとして違和感なく描かれている。 だが、作者もよくわかっていない土地を作者と共に手探りで旅することはこちらの想像力を掻き立てる奇妙な力となる。冒険ものとしてはもう少し危機の演出が欲しかったところではあるが。 中盤からは『She』いわゆる洞窟の女王アッシャが話の中心となっていくが、彼女のイメージは松本零士の漫画にしばしば登場する高慢ちきな女王キャラ。ぜんぜん好きにはなれない。恋愛小説として見るとどうにも納得がいかないというか、こんな奴らの恋愛なんてどうでもいいよと思えてしまう。だが、そのキャラの不完全さというか駄目さというかが、逆に宿命を強く意識させる。このキャラは好きとか嫌いとか、そういった感情を超越したところにこの物語の肝がある。 正直なところ古さは否めない。プロットの巧みさでは現代エンタメの敵とはなり得ない。なのに、リーダビリティの高さは捨てたものではなく、深遠な哲学と見果てぬ夢を感じさせる。 けっこう辛辣で容赦ない描写が散見される。特にラストは凄まじい。さほど意外ではないのだが、個人的には衝撃だった。 そうかと思えば甘い描写も。『筆舌に尽くしがたい』とか『私の力では描写できそうもない』とか、そういう逃げが5、6ヶ所もあって、これはちょっと多すぎる。まあ昔の小説の常套句なのかな。 コナン・ドイルはハガードより三歳年下で、本書『洞窟の女王』の一年後に『緋色の研究』でホームズをデビューさせている。wikiによるとドイルはこんな言葉を残しているらしい。 「空想やスケールの点ではハガードに及ばぬかもしれないが、作品の質と思想の面白さにおいてはハガードを凌ぎたい」 ハガードは冒険小説においてドイルのライバルだった? ドイルがホームズシリーズを執筆しながら「俺もこういうのを書いてみたいなあ」とハガードをチラ見していたところを想像するとなんだか楽しい。 |