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[ SF/ファンタジー ] タボリンの鱗 「竜のグリオール」シリーズ短篇集 |
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ルーシャス・シェパード | 出版月: 2019年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
竹書房 2019年12月 |
No.1 | 7点 | 雪 | 2020/03/04 16:14 |
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諸事情を鑑みるにまず当分は訳されないだろうと踏んでいた、全長約2kmの〈いにしえより横たわる竜〉の存在を背景に展開される「竜のグリオール」シリーズ第2弾、まさかの翻訳。「巨竜、起動」のアオリ文句通り、かさぶたのように背中にへばりついたハングタウンの村を振り落とし、膝下に広がるカーボネイルス・ヴァリーの街を踏みにじるグリオールの覚醒を描く表題作と、グリオールの死後数世紀を経て南米の小国テマラグアに運ばれた彼の頭蓋骨が、死してなおかの地にさらなる殺戮と混乱を齎そうと策動するポリティカル・フィクション『スカル』。以上、中篇と短めの長編作品計2本を収録。
『タボリンの鱗』は娼婦を買うためテオシンテを訪れた古銭商ジョージ・タボリンが、グリオールの導きにより手に入れた幼竜の鱗を擦ることにより過去にタイム・スリップ。紆余曲折の末同時にジャンプした娼婦シルヴィア・モンテヴェルディ、性的虐待を受けていた少女・ピオニーの二人と擬似家族を形成し、彼らがグリオールの目覚めに立ち会うというストーリー。作中では長きにわたる桎梏から解き放たれ、思うがままに飛翔するヤンググリオールも登場。 スリップ先の自然環境は豊かですが、そこでは竜に集められた人々が原始生活を営み、無法と暴力とが支配しています。殺人が物語を彩るのもこれまでと同じ。『始祖の石』に近いラストで、二人との擬似関係を絶たれたシルヴィアがジョージから渡された鱗入りのガラスペンダントを見つめ、失われた過去に想いを馳せるシーンで終わります。 長編『スカル』はぐっと現実世界に近付き、アナグラム通りおそらくは1980年代~1990年代後半の中米グアテマラが舞台。おぞましい儀式により新たに人間に生まれ変わったグリオールと、彼の存在を消し去ろうとする男女の物語。 とはいえ二人は英雄などではなく、作者自身の姿が投影された無責任で厭世的なヒッピー崩れと、カルト教団の元教祖。自分たち自身の愛に疑問を抱きつつ、空費した人生を取り戻そうと微かな希望に縋り竜殺しを行います。軍事政権下の抑圧された空気感と血生臭さが濃厚に出た作品。作者によれば「わたしの人生経験とわたしがかなりの時間を過ごした中央アメリカの政治情勢をもっとも色濃く反映している」ものだそうです。ここに来てのグリオールの人間化は評価が分かれるところでしょう。シリーズ自体も短編集『ジャガー・ハンター』収録作に大きく取り込まれた気がします。 グリオールはそもそも狡猾な存在ではなかったのかもしれず、よく語られる彼のこの方面でのみごとな手腕とやらは、その巨体と、責任逃れをしようとする人びとのあやつられやすさのせいで誇張されてきたのではないかと推測した―― 表題作で一区切りついたのち、大幅に神秘性を削がれたグリオールの物語は果たしてどこに向かうのか。まもなく訳されるであろう最終巻を静かに待ちたいと思います。 |