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[ ホラー ] 彼方 |
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ジョリス=カルル・ユイスマンス | 出版月: 1974年02月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
桃源社 1974年02月 |
東京創元社 1975年03月 |
光風社出版 1984年07月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2019/12/21 21:54 |
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十九世紀の美的生活者、要するに「オタク」の姿を描いて妙な人気のある「さかしま」の作者ユイスマンスが悪魔主義をテーマに描いた小説である。とはいえね、ヘンな期待をしちゃいけない。
主人公はジル・ド・レーの評伝を書こうとしている作家デュルタル。もちろん作者自身を投影していて、美的な懐疑主義者ではあるけども、現代に対する深い厭世主義に捉われている。 ともかく、研究する興味があるのは、聖者と極悪人と狂人だけだ と、聖女ジャンヌ・ダルクの戦友だった元帥ド・レー、幼児虐殺者であるジル、そして狂ったように悔悛するその最後の姿...とこのテーゼそのままに、ジル・ド・レーの生涯を調べるのだが、その実、このデュルタルの生活は平凡極まりない「退屈」の人生である。そんな自分に対する自己嫌悪から、平凡なプチブルジョアの日常生活から逃れれるのならば何でも、とかなりヘタレた男なのである。 文学にはただひとつの存在理由しかない。それは文学にたずさわるものを生活の嫌悪から救うことだ と言い放つあたりからも、この男の血の気の薄さみたいなものがうかがわれるだろう。まあだから、大した出来事も事件も何も起こらない。 わが物としなかった女ほどよいものはない と書くくらいだからそもそもお里が知れるのだが、ヤンデレな人妻イアサントがデュルタルにまとわりつき、デュルタルも魅惑と嫌悪をないまぜにしながら間男をする...で、この人妻イアサントは呪詛の特技で社交界の裏に生息する破戒僧ドークルと関係があり、その手引きでドークルが主催する黒ミサの儀式を覗き見る。この状況は結構詳細に記述されるのだが、邪悪というよりもカトリック儀式のパロディみたいな乱交パーティに過ぎなくて、軽薄な馬鹿馬鹿しさを感じる方が普通じゃないかな。 というわけで、奇書と呼ぶにはあまりに血の気がなさすぎる。「さかしま」同様にヘンな小説ではあるけど、幻滅と自己嫌悪に彩られたインポテンツな作者の自画像といったところのもの。本書は創元の「怪奇と冒険」にジャンル分けされているのだが、本書くらい怪奇も冒険もない本というのも珍しい...と思わず皮肉を飛ばしたくなる。けどまあこのダメダメさ加減が、評者は何が変に「面白い」。 |