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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
蒼ざめた馬
ロープシン 出版月: 1967年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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現代思潮新社
1967年01月

晶文社
1967年11月

岩波書店
2006年11月

No.1 6点 クリスティ再読 2019/11/29 21:17
このところ、赤・黒・緑とカラー題名が続いたので、少し反則めの作品だが本作で「蒼」。晩年のクリスティで同題のものがあるが、ヨハネ黙示録が出典なのでカブるのは仕方ない。たぶんクリスティのものより、世間的にはこっちが有名作品じゃないかな。初期の矢吹駆のテーマが政治テロの倫理を扱ったある種の「転向小説」なこともあるし、そういう意味じゃ「死霊」だって近いものだし...というので、政治テロを扱った小説の大古典といえば、これ。
1905年。モスクワに到着したイギリス人旅行者、ジョージ・オブライエンとは社会革命党のテロ組織のキャップの「わたし」の仮の姿だった。「わたし」は4人の同志たちとともに、モスクワ大公の暗殺の機会を狙っていた。思い切りのいい労働者のフィヨードル、独特の信仰心を持つワーニャ、学生気分が抜けないハインリヒ、主人公に恋心を持つエルナ...「わたし」は、人妻のエレーナとの恋に陥る。暗殺は何度も失敗し、警察の追及に同志たちにも損失が出る。がついに?
で、これは小説なのだけど、作者のロープシンことボリス・ザヴィンコフは現実の要人テロ(内務大臣プレーヴェ・モスクワ総督セルゲイ大公の暗殺指揮)を行った当事者であり、本人が行ったテロを淡々と描いた小説、ということでは類のないものである。

わたしは非合法生活にも、孤独にもなれてしまった。わたしは未来を知ろうとは思わない。過去のことは忘れるようにしている。

わたしは赤い血の職工長だ。わたしはふたたびこの仕事にとりかかるだろう。くる日もくる日も、四六時中、わたしは殺人を準備するだろう。わたしはひそかに尾行し、死によって生き、そしてあるとき歓喜の陶酔がきらめくだろう。

...とまあ、ハードボイルドを体現したかのような、「煮え切った」透明感が素晴らしい。「わたし」=ザヴィンコフは純粋に行動の人であり、その生活も意志もすべて「行動」のために捧げられているのである。そこには躊躇も内面も、まったくあり得ない。これがヤタラとカッコイイ。

秋の夜が落ちて、星が光りはじめたら、わたしは最後の言葉を言おう。わたしの拳銃はわたしとともにある、と。

本作はこの言葉で結ばれる。作者のザヴィンコフはロシア革命でケレンスキー内閣の陸軍次官になるが、ボリシェヴィキ革命で国を追われ反ソ活動を繰り返すが逮捕されて自殺している。まさに剣に生き剣に斃れた生涯である。


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ロープシン
1967年01月
蒼ざめた馬
平均:6.00 / 書評数:1