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[ クライム/倒叙 ]
大盗ジョナサン・ワイルド伝
ヘンリー・フィールディング 出版月: 1949年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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世界文学社
1949年01月

集英社
1979年10月

No.1 6点 クリスティ再読 2019/10/03 08:37
戯曲と小説をきっちり区別するのも意味がないのかもしれないが、本作は現代の「小説」に直接つながるイギリス近代小説の発祥期(1743年出版)のもので、タイトルの通り実在した「暗黒街の帝王」を主人公にした「小説」なので、「ミステリ小説」の守備範囲に、一応、入る。きっと最古の「ミステリ小説」だろうね。
作者はヘンリー・フィールディング。この人は「イギリス小説の父」と呼ばれる一方、政治家としても活躍し、それまで無給で非専門家による運営だったロンドンの警察機構を改革して、「ボウストリート・ランナーズ」と呼ばれる専門の警察官による常勤の組織を作り上げた。つまりスコットランド・ヤードの原型を作った政治家でもあるわけだ。それこそ本作は、アンタッチャブルによるアル・カポネ伝みたいなもの...
のはずだが、実のところ、作者のフィールディングは辛辣な政治評論家でもあって、表向きはタダの故買屋だが、陰ではカモの情報収集・実行犯の編成・盗品を持ち主に買い取らせる交渉・売却・逮捕された場合のアリバイ提供・判事や陪審の買収など、一貫した「企業」として「犯罪組織」を作り上げて運営したジョナサン・ワイルドを主人公としながらも、さらにワイルドをフィールディングの政敵ロバート・ウォルポールに見立てて「物陰から攻撃する」怪文書的な役割まであったりする。トンデモない小説である。

実際、偉大性が、権力、高慢、傲岸、人類への加害を旨とする限り、また、―歯に衣きせずに申し上げるが―大人物と大悪人とが同義語である限りは、ワイルドこそ並ぶものなき偉大性の絶頂を独占すべき男でござる。

と、価値観をひっくり返すのは、そのウラに首相ウォルポールを標的とした「ホメ殺し」とかそういうイヤミな手口が潜んでいる。しかし、善と悪がひっくり返った、価値の転倒を本作は徹底的に行っているので、社会の裏側にある「裏返しの世界」が妙にリアルなものとして浮かびあがることになる。ワイルドは犯罪者の世界ではカエサルやアレクサンダー大王に匹敵する偉大な英雄であり、大政治家であり、大経営者なのである...とこれにヒントを得たのがブレヒトで、本作と「ベガーズ・オペラ」に取材して「三文オペラ」を書いたわけだが、「三文オペラ」の辛辣な陽気さは本作から立ち上るものだろう。
一方、ドイルはこのワイルドの犯罪組織にヒントを得て、モリアーティ教授とその組織を作り上げている。というか、その旨を「恐怖の谷」でワイルドの名前を出して刑事に講義するシーンがあるくらいだ。だから、「最初期の犯罪小説」で「影響力絶大」で「きわめてアイロニカルな語り口が面白い」怪文書みたいな快小説である。「トリストラム・シャンディ」風の脱線とかギリシャローマ古典的な観念操作とか読みづらい部分はあるのだが、こういう小説は、他にはなかなかない。


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ヘンリー・フィールディング
1949年01月
大盗ジョナサン・ワイルド伝
平均:6.00 / 書評数:1